第272話 試合開始
試合が始まる、俺はベンチでピッチを眺めていた。
「観客席とは全然違うや。」
「そうだろ?みんなの気合いが伝わってくるだろう。」
「ええ、それに見えるものも違いますね。」
上から見るのと違いパスコースがわかりにくいが、選手の表情や声で上から見るのとは違うスペースが見える。
「お兄ちゃん、楽しそうだね。」
「リナのお陰だよ。」
俺はリナの頭を撫でる。
「にゃあ~♪」
リナは甘えてくる。
そして、一進一退でハーフタイム、スコアは1対0でドイツがリードしていた。
「リョウ、せっかくだ、右サイドハーフで出てみないか?」
「・・・俺みたいな素人が出ていいんですか!」
「この試合は交代枠もたくさんあるし、アップを見る限り、いけそうだったが。どうだい?」
「是非やらしてください!」
「よし、いいか、リョウが入るからみんなフォローしてやれよ。」
「おう。」
「同点になったら交代だからな。」
「わかりました。というか使えなかったら変えてください。」
「わかった、だが大丈夫だと思うぞ。」
ハーフタイムあけ、
『選手の交代をします。18番ヨシュアに変わりまして、40番リョウが入ります。』
「なんで、リョウくんが出てるの!」
「わからないんだけど?ねえ、ミウさん、これいいの?」
「ダメでしょ、そもそもドイツ人じゃないよ!」
「リョウは何をしてるの?」
ミウとアズサが混乱している中、
「クロー、埼スタだよ、ピッチに立ってるよ。」
「落ち着け、それより代表デビューは感動しないのかい?」
「はっ!そうだ!俺代表になったんだ!・・・って?あれ?ドイツ代表?なんでなれたの?」
「今ごろか!それより試合開始だからな、迷いは置いておけ。」
「そうだね、集中しないと、足引っ張らないよう頑張るよ。」
「その意気だ!」
ドイツボールでキックオフになる。
笛がなった瞬間、サイドを駆け上がってみる。
トップ下のシュナイダーからロングボールが来た。
きっと、やってみろとの事だろう。
ボールが届く時に目の前に日本のサイドバックが来ていたのでトラップをわざと浮かし、DFの頭を越える。そのまま抜き去るがまだワントップのクローは上がって来ていなかったのでそのまま中央にドリブルを仕掛ける、今度はセンターバックがいるがこれを大きめにかわすと・・・
ペナルティエリアに入った!
センターバックが遅れて、足が出てきたのでわざと引っ掛け・・・
PK獲得♪
ピィーー!
もちろん、審判の判定もPKだった。
「リョウ、いきなりPK獲得か?そのままシュートまでいけただろ?」
「確実なのがいいだろ?それに少し長かったからな~抜けてもGKといい勝負だっただろう。」
「良く見てるな。」
「それよりクロー、上がりが遅いよ!出せなかったじゃん。」
「わりぃ、おまえがどう動くか見てたら遅くなった。」
「遅刻は厳禁だぞ♪」
「生意気なやつめ。」
クローは笑いながらPKを蹴りにいった。
クローは難なくゴールを決め、2対0になった。
日本はリョウを警戒して、マークをつけるが、仕掛ける時のスピードが早すぎて追い付けず、右サイドはいいように上がられていた。
その上、プレーに関わってない時のリョウがフラフラと移動するため、マークについているサイドハーフがつられて、空いた穴をドイツサイドバック、ラムの餌食となっていた。
そんな中、後半75分、シュナイダーが負傷退場してしまう。
「リョウ、トップ下に入れ。」
代わりに出てきたエジが監督の指示を伝えて来る。
「トップ下?」
「シュナイダーの代わりに入れ、俺は右サイドに行く。」
「はーい。」
監督の指示に従いトップ下に。
「おいおい、いきなり新人がトップしたかよ。なめられているな。」
日本のトップ下の田中が軽く話しているので、
「俺もサッパリだよ、トップ下やったこと無いのに。」
「お前、やはり日本人か?」
「そだよ~」
「なんでドイツにいる!」
「さあ?なりゆき?」
その時ボールが来たので、ワンツーで折り返し、俺もゴール前に向かい、走り出す。
田中は足が遅く、簡単に抜き去ると田中の後ろのスペースが自由に使える、
「エジ!」
右サイドのエジに展開して、クローはペナルティーエリアに入ったら、日本のデイフェンスがペナルティーエリア内に集中された。
俺はその手前でフリーになれる場所に走り込む。
エジからクロスが上がるが、クローを狙わず、俺に低い弾道で早いパスを出してくれた。
「もらい!」
俺はノートラップでボレーを蹴り込み、ボールは左上角入っていく。
一瞬、埼スタが静かになる。
『ゴーーール!!3対0、日本まさかの追加点を入れられてしまいました!』
アナウンスに歓声が戻ってくる。
「リョウ!ナイスゴール!」
「エジ!ナイスパス!最高のパスだよ!」
「ちょい、あれキツくね?」
「クロー何言ってるんだよ。もっと速くてもいいぐらいだよ。その分威力上がるし。」
「おいおい、最高のパスじゃないのかよ。」
「ゴメン、エジ!」
「いいさ、俺もアシストついたからな。リナのサインが近づいたさ♪リョウも査定にプラスしてくれよ。」
「エジ、きたねえぞ!」
「何せリナのお兄ちゃんにアシストしたからな。代表初ゴールだろ?」
「そうだった、俺、初ゴールだ!ゴールパフォーマンス忘れてた!」
「プッ、今からやったらカード出るからな、諦めろ。」
「うーーー、失敗した~」
和やかな雰囲気のドイツ代表と違い、日本代表はお通夜のようになっていた。
「おい、さっきはよくもやってくれたな!次はやらせないからな。」
ゴールを決めてから俺は田中に張り付かれていた、服も引っ張られ、自由に動けないのでボールが来ても、ワンタッチのみで仲間に振り分けていた。
「お前、自分でやろって気は無いのか!」
「ないよ~服持たれてるし、他の人が自由な分、俺は展開すればいいんでしょ?それがトップ下の仕事じゃないかな?それより負けてるのにトップ下の田中さんが俺に張り付いてていいの?明らかに攻撃出来てないよ?」
「クッ!」
「1枚後ろの神明さんとかに任せたら?」
「お前に言われなくても!」
田中の手が緩み、意識が剃れた瞬間、
「バイバ~イ♪」
俺は田中を振り切り、フリーになる。
フリーになった瞬間、ボランチのディアから俺に向かい縦にパスが来る。
目の前に神明さんがいたので縦に来たボールを浮かし、神明さんの頭を越え後ろに落とす、ボールが地面につく前にゴール前に走り込んできたクロー目掛けて力一杯ボールを打ち込む!
「なっ!」
クローはボールの速さに驚いたようだが、流石ドイツ代表、きっちりコントロールパネルされたシュートをゴールに決めていた。
「リョーーウ!今のはパスじゃないよな!」
「やだな、クロー、パスだよ♪ちゃんと狙ったし。」
「殺意があったぞ!」
「ちゃんと力一杯蹴ったからね。」
「それはシュートだろ!」
「でも、決めたじゃん、流石だね。」
「俺もこれで飯を食ってるからな。」
「ほら、試合のMVPはクローじゃない?これでハットトリックでしょ?」
「そうだった。リナさんのサインはいただきだな!」
「いや、今のは俺のパスのお陰だろ?」
「ディア、いいとこにくれたよね。」
「リョウが振り切ったの見えたからな。」
「少しマークが緩んだからね。ただこの後は自由がないかも~」
「まあ、もう試合が終わるし、ノンビリしろよ。」
残りは5分ぐらいだった。
「あと5分かぁ~せっかくだし、もっと遊びたいな、よし、ねえみんな、どうせマークに憑かれて動けないならいないものとしてピッチを走り回っていい?」
「いないもの?」
「トップ下の位置が空くけどフォローして欲しいんだ、その代わりに走り回って、マークを引き離してやる。」
「まあ、元々リョウは自由にやらしてあげろと指示きてるからな、やってみろよ。」
キャプテンのタイガーが許可をくれたので、試合再開から掴まれる前に全力でピッチを走り回った。
「はぁはぁ、待てよ、お前!」
俺をマークするために走り回った、田中はアディショナルタイムに入る時にはバテていた。
「ここらかな?」
バテて来ている田中の前に立ち、様子を見る。手を上げボールを要求。タイガーがボールをくれたので田中に仕掛けてみる、田中は疲労困憊の中、ディフェンスをしようとするがフェイントを三回かけた時に足がもつれて転けてしまった。
「じゃあね~」
田中を抜いたあと神明と西福が俺に向かって来たが、上がってきたディアに預けて、俺はさらに前に。ボールはディアから左サイドのシュールに、そして、深い位置から上がってきたクロスに俺はオーバーヘッドでゴールを決めた。
「よっしゃーー!!」
気持ち良く豪快なゴールが決まった所で試合が終了した。
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