第209話 演奏会

演奏会の日

「あー緊張してきた、」

俺は名古屋に来ていた。演奏会場は源グループ所有の音楽ホール、1000席もある大きな会場だった。

「リョウくん大丈夫?」

「だいじょばない・・・演奏会なんて初めてだから何していいかわかんないよ。」

「リョウくんはピアノを弾いたらいいんですよ。他の事は他の人に任せたらいいんです。」

「うう、とちらないか心配になってきた。」

「もう、こんな弱気なリョウくんは珍しいですね。」

「お兄ちゃん大丈夫?」

「リナ~情けない兄でごめんよ~」

リナは俺を抱き締めて。

「よしよし、お兄ちゃんは失敗してもリナのお兄ちゃんだから安心して。」

「失敗・・・」

「あれ、逆効果だった?」

「リナちゃんどいて、リョウ兄を立ち直らせるのはこれしかないから。」

ミズホはリョウを抱き締めながら、こっそりポチのタオルをリョウの鼻に当てて匂いを嗅がせる。

「リョウ兄落ち着いてね、深呼吸しよ。」

リョウはポチの匂いをかいだ事で平静を取り戻していた。

「ミズホ、もう大丈夫、たかが演奏だったね。」

「そうだよ、演奏するだけなんだから何も気にしなくていいんだよ。」

「じゃあ、行ってくるよ。」

リョウはステージに向かった。


「ミズホさん、やはりそのタオル譲ってくれません?」

「ダメです。これはリョウ兄にたいしての秘密兵器なんですから!」

「ミズホさんなら他ももっているんでしょ、少し分けてくれませんか?」

「ダメですよ、私が優位に立てる数少ないアイテムなんですから。」

「うーポチさんに私が勝てる日は来るんでしょうか?」

アズサの嘆きが出るなか・・・


リョウはステージで演奏を開始した。

最初に集まっているのは前回護衛についてくれた傭兵団のメンバーだった。

彼らは特に音楽に興味はないが若の演奏と聞いてきただけだったが・・・

演奏が終わると全員立ち上がり、拍手をしていた。中には泣いてる者もいた。


二部に移る前に子供達の演奏会が入る。

失敗したり、拙い演奏を行ったりしている。

親御さんがカメラを回したりする様子を眺めていたら一人の子供が近付いてきて。

「先生、どうすれば上手くなれますか?」

俺は周囲を見回すが誰もいない。

「せんせい?っておれ?」

「はい、先生みたいに素晴らしい音楽を作ってみたいんです!」

「うーん、教えてあげたいけど、感覚的なものだからなぁ、それに演奏自体も我流で褒められたもんじゃないよ。」

「そんな!先生の演奏は素晴らしいですよ!それに作られた曲も他にはない独特なリズム、ボクもそんな曲を作って演奏したいんです。」

「うーん、といってもなぁ、普段は特に練習もしないし。」

「えっ!」

「俺なんてサラリーマンで剣士なだけだよ。」

「そんなことないですよ!」

「うーん、君の演奏をじっくり見たわけじゃないから、合ってるかどうかわからないと思うアドバイスとしてだけど、指先の一本一本全てに均一に意識を向けて動かすことかな?利き手関係なくね。」

「そんなことが出来るんですか?」

「出来るよ、武術の応用になるけどね。」

「あの、少しだけでいいんです、見てもらえませんか!」

「まあ、いいよ。ね?」

「進行をしている司会の人に確認する。」

「あまり時間はありませんが子供達の演奏の最後になら。」

「お願いします、君もそれでいい。」

「はい、あとボクは織部アキラといいます。アキラと呼んでいただけたら。」

「わかったよ、アキラくんだね。じゃあみんなが終わるまで待ってようか。」


しばらくして子供達の演目が終わり二部の開始の為にホールの入れ換えが行われていた。

「じゃあ、弾いてみて。」

アキラに演奏させてみる。

「左右のバランスが悪い、右利きでしょ?左の意識が弱いよ。あと小指の力が弱いね仕方ない事もあるけどちょっと意識するだけで変わると思う。」

アキラは指摘された事を素直に受け止め、意識しながら弾く

「うーん、ちょっと触るよ。」

俺は背中のツボを押す。

「これで変わると思うけど?」

アキラはもう一度弾くとさっき動きにくかった所がスムーズに動くようになっていた。

「えっ!全然ちがう!これボクが弾いてるの!」

アキラは混乱しながらも弾くのを止めない。

「うん、良くなったね。あとはお家で楽しんで、そろそろ司会の人に怒られそうだ。」

既に客は入れ替わっており、本来ならリョウの入場を待つ時間だったのだが・・・

「すいません、先生の休憩時間を。」

「いいよ、これぐらいで休憩なんて、いらないし、このまま始めようか。アキラくんはどうする時間があるなら見ていったらいいよ。」

「はい、拝聴さしてもらいます。」

「そんな大袈裟なものでもないけどね。」

俺はそのまま演奏を行った。

演奏仕切ったあと、会場の人は立ち上がり拍手をくれた。

「ありがとうございます。自分も源グループの為に頑張りますので皆さんも頑張ってください。次にこんな機会があるかはわかりませんが、機会があればまた何かを行いたいと思います。」

会場から歓声が鳴り響く中で、俺は舞台裏に帰った。


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