第169話 コウイチの心境
俺は源コウイチ
家柄もよく容姿端麗、頭脳明晰とくれば人生勝ち組だろう。
その証拠に今まで女にも友人にも困ったことは一度もない。
幼馴染みのヨシトも上手く周囲をまとめあげており、将来は今の仲間を連れて源グループの地域長になり、エリート街道をいくのだろう。
そう思っていた。
今日までは・・・
俺は幼馴染みの集まりでクルーズ船上でランチを取ることにしていた。
この幼馴染み達は源家の分家たる我が家に代々仕えてくれている家の子供達だ。
今日はその親睦を深める為に集まっていた。
といってもほとんど昔から自分に逆らう者などおらず俺の機嫌を伺いに来ているという感じだった。
まあ、ヨシトだけは今も忠言をくれるのだが。
屋外テラスで談笑を楽しんでいると俺の視覚にガキが手摺から身を乗り出しているのが見えた。
周囲の奴等は誰も見てみないふりをしているようだった。
『しかたない、俺が注意してやろう』
珍しく善意の行動だ、まあ、ガキが落ちたら目覚めが悪いしな。
「ガキがこんな所で遊ぶな!遊ぶなら他のことをしろ!」
俺が声をかけると手摺の上に乗っていたガキが落ちた・・・
『なに!誰か助けてやってくれないか!』
叫びたいのに声が出ない、
このままガキが死んだら・・・
最悪の状況が浮かんでくる。
人を殺した俺は地域長になれないのではないか?そもそも源グループに入れるのか?
俺はこのまま終わるのか?
頭の中で考えがグルグル回る。
近くにヨシトがいた・・・
「お、おれは悪くないよな、あんな所で遊んでいたガキが悪いんだ・・・なあ、そうだろ?ヨシト。」
俺は一体何を言ってるんだ、言いたいのはこんな事じゃないのに。
「コウイチ!こんな時に何を言ってる、誰が悪いかなんて後だ!子供を助けないと!」
そうなんだ、ヨシトお前が正しい、だが・・・
「だ、だってな、俺が子供をころしたのか・・・」
「まだ、死んでないだろ!早く助けないと!コウイチしっかりしろよ!」
ヨシト気休めはやめてくれよ。
「ここから、落ちたんだぞ!助かるわけがない・・・」
「お前しっかりしろよ!正気になれ!」
ヨシトは俺を揺さぶるがどうも考えがまとまらない、俺は終わったんだ・・・
「あれか?」
そんな時、ヨシトが子供を見つける、
よかった、まだ生きてる!今ならまだ間に合う!
俺は手摺から下を見るが到底飛び込む事は出来なかった。
すると、ザブン海から音がした。
誰かが飛び込み、助けに行った。
そこからは奇跡だった、子供は無事救出され、助けた本人は何事もなかったかのように颯爽と船に戻ってきた。
俺は何かの映画を見ているのか!
俺の胸のドキドキが止まらない。
その人は連れの女の子の所に行き談笑を始めている、俺は声をかけようと近付くとヨシトが邪魔をしてくる。
「コウイチ!なんて事をしたんだ!あと一歩で子供が死んでいたんだぞ!」
俺の胸倉を掴み怒鳴る、こんなに怒るヨシトを見るのは始めてだった。
「わかってる、俺が軽率に声をかけたばかりに・・・」
「お前はいつもそうだ!自分勝手に辺りを怒鳴り散らして!どれだけ俺が尻拭いしてきたと思っているんだ!それなのに今度は子供を殺すだと!もう俺は付き合いきれない、今後は友人もやめさせてもらう!」
ヨシトは乱暴に俺を突き飛ばすと立ち去っていった。
他の取り巻き達も俺に近付くことなくヨシトについて何処かに行ってしまった・・・
『なんだ、友人なんていないじゃないか・・・いや、ヨシトだけだったのか』
俺は今まで自分がハリボテだった事に気がついた。
そして、何もなくなった俺は今度こそあの人に声をかけようとしたが、ふと一緒にいる女に気がついた。
ミズホだ、相変わらずいい女だが今の俺には以前ほどのトキメキがない。
だが、あの人の知り合いなちょうどいい
「ミズホさん!」
俺はミズホを呼び止める
ミズホが振りかえった。
「なに?あれ、コウイチさんどうしたんですか?用事がないなら後にしてくれますか?」
なんて好意のない目だ、俺はホントに何も見えていなかったんだな。
まあ、それは置いて、ミズホにたずねる。
「その男は誰なんだ!」
「私のイトコです。じゃあ、これで。」
ミズホがめんどくさそうに離れようとしているが、もっと教えてもらわないと!
「待ってくれ、その男は何者なんだい!」
「私が誰と一緒にいても関係ないですよね。私達は急いでいるので!」
違うんだ!君の事なんていいから、彼の事を教えてくれ。
「ミズホ、知り合いか?」
「リョウ兄、早く洗わないと!」
「あっ、そいつは、おい、お前な子供が手摺で遊んでる所で声かけるなよ。」
知られていた・・・しかし、俺にも事情があるんだ!
「あれはあんな事をしてる子供が悪いんだ!」
「まあ、そうだけどな。声のかけ方もあるだろ。次は気を付けろよ~」
えっ!叱責されない?
長年の付き合いだったヨシトすら俺を見捨てたのに!
「アンタは責めないのか?」
「なんで?あれはあの子供が悪いだろ?まあ、落ちた後の対処は悪いがそこは仕方ないしな。」
俺の事を見てくれていたのか?
「それでも、俺のせいで子供が・・・」
「気に病むなよ、結局生きるか死ぬかは本人次第だからな、お前は善意で声をかけたんだろ?やりかたは悪いが俺が責める事じゃないな。」
「えっ・・・」
そんなに優しい言葉をかけられては・・・
「そもそも、目を離していた親が悪いし、あんな馬鹿な事をする子供も悪い。まあ、死んでも自業自得だが、お前も危ないと思って声をかけたんだろ?今の御時世放置して方が楽なのにあえて行動したんだ、責めることはないだろ。まあ、落ちた家族からは文句の一つも言われるだろうけどね。」
この人は俺を理解してくれているのか!
「・・・あなたの名前は?」
「俺か?桐谷リョウだ。」
「桐谷リョウ・・・アニキと呼ばしてもらっていいか?」
俺はこの人について行こう、俺を理解してくれるこの人に全てを捧げよう。
それが、全てを失うところだった俺を助けてくれたアニキへの俺の感謝の証だ!
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