第70話 バスの中

バスの中、

「えーおかげさまで無事スタジアムを出ることが出来ました、ありがとうございます。」

俺とミウはみんなにお礼をのべていた。

「遠慮するなよ。」

「水くさいな、仲間だろ。」

優しい声が飛ぶ、リーダから。

「これから駅に向かうけど。それまでゆっくりしてください、渋滞もありますから少々時間がかかりますから。」

そして、みんなで騒ぎながら、渋滞を待っている中、

「おっ、カラオケやろぜ。」

「いいね、誰から歌う・・・」

ふと視線がミウに集まる

「わたし?」

「ミウ、歌ってみようか。」

「リョウくん?まあ、いいですよ。不詳ミウ、1番手で歌わしてもらいます。」

ミウはマイクを受け取る。

「えっ!いいの?」

「おおー!」

「おい、静かにしろよ!聞こえないだろ!」

そして、曲が流れだす。選曲されていたのはミウのデビュー曲だった。


歌い終え、ミウは。

「お粗末さまでした。さあ、次は誰かな?」

しかし、誰もマイクを取ろうとしない。

「あれ?次は?」

ミウはマイクを渡す相手を探している。


俺は席の後ろにいたリーダさんに。

「よければ、ミウさんに続けて歌ってもらう事ってできますか?」

「まあ、ミウ次第ですが、聞いてみますね。」


「ミウー、次も言ってみよう!アカペラで新曲だ♪」

「リョウくん?また、ムチャブリする~」

「えっ!新曲?」

「えーと、この前レコーディングが終わったばかりの曲ですが聞いてください。」

曲はなかったがそのぶんミウの声の透明さがよくわかる。出来だった。


「もう、あー恥ずかしい。リョウくんあとでお説教するからね!」

ミウは歌い終わったあと、ちょっと怒っていた。

「ミウ何怒ってんだよ、いい出来だったよ。」

「むう、リョウくんの曲が無いからいまいちだったの。もう、アカペラはしないからね!」

「はいはい。」

「もう、真剣に聞いてないなぁ~」

二人でじゃれていたが、ふと周りの反応がない事に気付く。

俺は周囲を見回すと泣いてるものが多数いた。

俺は近くのリーダに取りあえず聞いてみる。

「あ、あの?大丈夫?」

「リョウさん!今の曲いつ発売何ですか!」

「ミウ、いつだったっけ?」

「来月だよ、発売日ぐらい覚えておいてよぉ~」

「いや~つい。」

「リョウさん、予約したいです!」

「いいですよ。」

「リョウくん?すでに予約一杯だよ。リョウくんが百枚しか作らないとかいうから。」

ミウはちょっと皮肉を込めて言った。

「あら?そうなの?一枚ぐらい増やせない?」

「増やせるけど、一枚じゃすまないと思うな。」

「へっ?」

「リョウさん、リーダなんて音痴なんだからいい曲なんてわかりませんよ。それより俺にください。」

「いや!俺が先だろ。」

「孫に聴かせてやりたいんじゃ何とかならんか?」

混乱が起きていた。

「あら?どうしよう?」

「だから、私は言ったんだよ。百枚じゃ足りないって。」

「ミウ~~~」

「はいはい、リョウくん泣きそうな顔しないでちゃんと妻の私がフォローしてますから。」

「フォロー?」

「念の為、三十万枚生産中です。その後の増産計画も立ててあります。」

「おーーー!」

「ホントに百枚って聞いた時のみんなの顔見せてあげたかったよ。」

「ミウ、俺が間違ってた?」

「はい、大きく間違ってました。百万枚スタートってタツマさんは言いたかったみたいですよ。」

「あう~」

「皆さんの分は予約を受け付けますので、安心してくださいね。」

「頼んでおいてなんですが、いいんですか?」

「いいですよ、彼氏に現実見せるいい機会になりましたし。」

「ははは、お願いします。」

「俺もだ、俺も買うぞ!」

「あーリーダさん、枚数の取り纏めお願いできますか?」

「わかりました。此処にいない人でもいいんですか?」

「うーん、際限なくなると困りますので浦和サポーター限定という事にしておいてください。」

「わかりました。公式の浦和サポーターに登録者限定にします。」

「それなら!」

俺は復活した!

「浦和サポーター限定のパッケージにしよう!」

「リョウくん?」

「ミウいいだろ~」

「う~ん、絶対混乱招くからお薦めはできないのだけど。」

「感謝の気持ちを込めたいだけなんだよ。」

「うん、わかった。じゃあどんなのにするか、考えてね。発売日まで時間が無いから急いで。」

「ありがとう、ミウ。」

俺はミウをハグする。

「リョウくん、人前・・・」

といいながらハグを止めようとしなかった。


「あ、あのいいんですか?特別使用なんて。」

「いいよ、俺がしたいだけだし・・・そうだ!今度試合の無い日に埼玉スタジアムで写真を撮ろう!」

「リョウくん?」

「リーダさん、何時もスタジアムに来てるサポーターさんを集めれますか?」

「まあ、来れる人だけでいいなら。」

「俺とミウを中心に写真を撮ってそれをパッケージにします!」

「俺達がパッケージに・・・」

「もちろん嫌な人は不参加で、浦和サポーター限定ですから、ちょっとした記念にどうですか?」

「わかりました。協力しましょう。」

「では、日にちは後日連絡いたしますね。」

軽く打ち合わせをしていると駅に着いた。

「あっ、着いたみたいですね。今日はありがとうございました。おかげさまで無事脱出出来ました。ではまた、埼スタで会いましょう!」

俺は手をあげ、ミウは深々とお辞儀をしてバスを降りた。


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