第14話 サイン提出

翌朝、大原部長の元を訪ねていた。

「部長これが頼まれていた、例のブツです。」

俺は色紙を渡す。

1枚には『お仕事お疲れ様です』

2枚には『あとちょっと頑張って』

3枚には『すごい、お仕事頑張りましたね』

と書かれていた、

ついでに書いた色紙を持ってる写真も添えていた。


大原部長はそれを見て感動で震えて、

「いいのかね、こんなお宝を提出してもらって。」

「いいですよ、頼んだら書いてくれましたし。」

「俺が着服したくなるな。」

「ダメですよ、暴動が起きます。」

「そ、そうだな、仕方ないこの後みんなに見せに行くぞ!」

「はい、それとこれを。」


俺は法被を渡す。

そこには『大原さん頑張ってください』と書かれた法被があった。

そして、その法被をミウが着ている写真も渡した。

「こ、これは!!」

大原部長は手を震わせながら受け取った。

「こ、これは凄すぎる、我家の家宝だ!」

そして、写真の裏を見ると『リョウくんの事お願いしますね』と書かれていた。

「桐谷くん、君はミウ様と本当に仲がいいのだな。」

「ええ、昔からの知り合いですからね。」

「そうなのかね?」

「ええ、子供の時から知ってますから、兄妹みたいなものですよ。」


大原部長に連れられ部署に戻る。

「あーみんな聞いてくれ、桐谷くんがミウ様のサインを三枚貰ってきてくれた、よって売上げ三位までに渡される。頑張ってくれたまえ!」

「「「うおー!!!」」」

絶叫が響き渡り、その後仕事にすぐ戻っていた。

みんなの凄いテンションに引きながらも仕事に戻っていった。


金曜日

俺は働いていて初めて仕事がとれそうだった

先方にアポを取り打ち合わせに向かう。

通された部屋には担当者、担当課長、女子高生がいた・・・

女子高生?思わず二度見してしまった。

そこには黒髪のロングヘアーの大和撫子の定番といった可愛い子がいた。

見とれていると・・・

「どうしました?」

担当者に声をかけられ、

「すいません、では説明に入らせてもらいます。」

担当者、課長の理解は得られ大筋の合意が決まった。

「では、商談は成立ですね。」

俺は一安心していた。


資料の整理も終え、帰る段階になったところで女子高生に声をかけられた。

「ねえ、リョウくん?なんで私に声をかけてくれないの?」

俺は首を傾げた、

誰だっけ?

「忘れたの?アズサよ、源梓(アズサ)」

「アズサ?・・・ってアズちゃん?大きくなったね。」

彼女は五年前、二十歳の頃に行ったスノーボードで一緒に雪山で遭難した仲だった。

「もう、忘れるなんて酷いわよ、一緒に一晩過ごしたのは嘘だったの!」

「人聞きが悪い!遭難しただけだろ。」

「そうだったかしら。」

笑いながら、からかっているのがわかった。

「なんで此処にいるの?」

率直に聞いてみた、

「リョウくんがお父様の会社と取引しようとしてると聞いて会いにきてみました。」

「なんで?」

「もう、あの時助けて貰ったのにお礼も言えず帰っちゃうんだから、探すのに苦労したんだよ。」

「ああ、あの時、仕事があったから急いで帰ったんだよ。いや~あばら骨が折れてたからあの時は痛かったなぁ。」

「もう、入院してると思ったらいなくて、困ったんだからね。」

「ゴメンゴメン、探してるとは思わなくて。でも、久しぶりに会ったら綺麗になってるからわからなかったよ。」

アズサは顔を赤らめ小さな声で、

「リョウくんの為に綺麗になったんだよ。」

「ん、なに?」

「何でもないですよ、それより連絡先教えて。」

「あいよ、これでいい。」

お互いに電話番号を交換した。

「うん、でこれから接待だね。」

「へっ?」

「何よ、大口の契約でしょ担当者を接待ぐらいはするの。」

「しかし、俺も会社に報告に戻らないと。」

「む、誰か!」

「はい、お嬢様。」

担当課長さんが反応した。

「先方に連絡をしてください、リョウくんを接待しますとお伝えを。」

「かしこまりました。」

俺は反対も出来ず連れていかれる事になった。


高級料亭

「はい、リョウくん呑んで♪」

俺はアズサにお酌されながら飲んでいた。

「いや、あの時は娘が世話になったね、ささ、一献。」

俺の前には源グループ会長、源義成(よしなり)がいた。

源グループは俺が勤めている西園寺グループと同じぐらいの大手企業だ。

そこの会長ともなると会えないはずなのだが、

「ありがとうございます。」

俺はつがれた酒を飲み干す。

「おっ、いける口だね。さあもう一献、アズサついであげなさい。」

「はい、お父様♪」

あらためてつがれる。

その間周囲を見るが下座に座る重役の皆さんは静かに様子を見ていた。

「アズちゃん、皆さまにはついであげないの?」

「主君の娘がついでは皆さまが恐縮していまいますので・・・」

「主君?」

「ああ、リョウくんは知らないのか、うちの源グループは元々武家なんだ。重役のほとんどはその時からの家臣で今でもその名残があってね。」

「なるほど。しかし、それなら自分が上座にいるのはあまり印象に悪いのでは?私は西園寺グループでも下っ端ですので下座にまわるべきかと。」

「君はいいんだ。なにせ娘の命の恩人だ、当主の私自ら相手しないと失礼な事は皆も知っているから気にしないように。」

俺はそんなものかと受け入れ接待を受けていた。

宴も進み、俺も大分酒がまわってきた頃、ヨシナリさんから提案された。

「リョウくん、君はさっき下っ端と言ったけど、うちに来る気はないかい?うちとしては君を重役として迎える準備はあるよ。」

「えっ?」

「君は娘の恩人だ、そんな君が下っ端で苦労してるなんて考えられない。うちなら君を侍大将・・・」

「侍大将???」

「当主、違います侍大将は昔すぎます。」

「おっといけない、取りあえず課長の席を用意するよ、ゆくゆくは経営に関わって貰いたいと思っている。」

俺は身を正し、

「嬉しい申し出ですが、お断りさせてください。」

「どうしてだい?自慢じゃないが源グループは西園寺グループにも負けない企業だ、そこの課長なら待遇もよくなるけど。」

「自分は西園寺グループのタツヤ社長に子供の頃、世話になっております、その縁を裏切り源グループに移るのは自分に出来そうにありません。」

「うーん、気に入った!ならタツヤ社長と交渉してみよう、是非君が欲しくなったよ。」


「その必要はないよ!」

全員が振り向くとタツヤ叔父さんと怒り顔のミウがいた。

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