(四)(了)
気がつくと、もう既に夜だった。
僕はどうなったのか、気を失ってしまい、よく覚えていない。
僕はコテージのどこかに寝かされていたようだった。部屋は暗く、周囲には誰もいなかった。
コテージを出ると、外ではクラスメートの一部の人間がチラホラ見えた。
そうだ、初日の夜には肝試し大会をやるといっていた。
僕は長野君とペアを組んでルートを歩いて行くことになっていた。
スタート地点には先生がいて、時計を見ながら、女子三人グループが出発する合図を送っていた。
女子生徒三人組は、わいわい言いながら懐中電灯一個の明かりを頼りに暗闇に覆われた小道を進んで行った。
すると、次に長野君が一人でスタート地点にやってきた。
長野君は緊張した面持ちで先生の出発の合図を待っていた。
僕は長野君に近づき「お待たせ、一緒に行こう」と声を掛けた。
その瞬間、先生が出発の合図を出した。長野君は僕の声に気づかずに暗闇の中へと足を踏み入れていった。
僕は慌てて、足元に気をつけながら視線を地面に落としながら歩いて行く長野君の後を追った。
「待ってよ」
「僕を置いていかないで」
「どうしたの、無視しないでよ」
「僕がいるから、怖くないよ」
「ねえ、長野君、聞こえている?」
僕は彼の後ろからそう声を掛けながらついていった。でも彼は僕の声に気づかなかった。
すると突然、茂みの中から「わっ!」と声がした。
僕は大声を出しながらびっくりしてしまった。
よく見るとお化け役のクラスメートの熊谷晴男と安中春菜がいた。
二人のクラスメートは、僕の姿を見ると、大きな悲鳴を出して、スタート地点の方へと走って行ってしまった。
お化け役が驚いて逃げ出すなんて。肝試しにならないじゃないか。そう思って長野君の方を見た。彼はそんなクラスメートの声に驚いた様子もなく歩き続けていた。
長野君の様子がおかしかった。他にも二箇所でお化けに扮したクラスメートにあったが、皆僕たちの姿を見るや、驚いて逃げ出していった。そうやってお化けが驚くほど怖いものがあるという演出なのだろうか。でも、それでも長野君は、驚いたそぶりを見せなかった。ずっと地面の方を見て、転ばないように注意していた。
ついにゴールにやってきた。ゴールと行っても森の中の小道を一周してスタート地点に戻ってきただけだった。
ここでは、クラスメートたちがガヤガヤしていた。
どうやら幽霊を見たという。さっきの熊谷と安中が「本当に見たんだよ!」とクラスメートに語っていた。
「そんなわけないだろう」
先生が二人にそう言っていた。
そりゃそうだ。肝試し大会なんだから。二人組のお化け役なんだから、二人でお互いを見合えばお化けを見ることになる。
「仕方ないなあ。確認するか」
そう言って先生はコテージの方へ歩き始めた。クラスメートたちは先生の背後についていった。長野君は、興味なさそうにスタート地点に残っていた。
僕は何事かわからなかったので、先生の後をついて行ってみることにした。
先生たちはさっき僕が出てきたコテージの前まで来た。そして先生がコテージのドアを開けて中に入った。
明かりがついた。先生は中へドンドン進んだ。生徒たちはコテージの外から中を覗き込んでいた。
「いるじゃないか」
先生の声が聞こえた。
「いや、本当だって。さっき見たんだよ」
熊谷が先生に向かって言った。
「大丈夫。遺体が歩き回ったりはしないよ」
遺体? 何のことだろう。僕はコテージの中に入り、奥に来た。他のクラスメートも中に入ってきた。
するとそこには、敷布団の上に一人の生徒が寝かされていた。掛け布団をかけられ、顔には白い布が被せられていた。
「でも、本当に見たんだよ」
中に入ってきた熊谷がさらに言った。
「じゃあ、確かめてみるか」
そう言うと、先生は、生徒の顔に被せてある白い布を取り去った。
そこには、血の気がなくなり白い顔をした生徒が寝かされていた。
そしてその顔には見覚えがあった。よく知っている顔だった。それは、僕であった。
(了)
林間学校にて 筑紫榛名@12/1文学フリマ東京え-36 @HarunaTsukushi
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