第三話 転校生




教室へ入るとまずくるのは冷気。  熱い体を冷やしていく。 涼しい。 俺の席は一番後ろの窓側、校庭の方だ。 ……ちなみにハジメは俺の前の席だ。


 チャイムが鳴り、周りの生徒は各々の席へ着く。 最後の「……コーン」という音と同時に、俺の担任、アガサ先生が入ってきた。




 ガラガラ




 って、扉開けたまま……。 生徒一同不満の視線をアガサ先生に向ける。 容赦なく熱気は入ってくる。 二重の意味で。 そんな生徒たちの気も知らず、アガサ先生は自慢の筋肉質な体を教卓の前へ持って行った。 これで41歳だから驚く。 




 「皆、おはよう!! 」




 さっきの二重の意味のもうひとつがこの人自体だ。 見た目通り熱血教師。 俺は嫌いなタイプ。


 しっかし、朝からでけーなぁ、声。 おはようございます と生徒一同の普通の声。




 「今日は! 皆にお知らせがある!! 」




 アガサ先生はフル稼働で一つ一つの言葉を発する。 マッスルな体も相まって、印象はもう一種の咆哮だな……。


 夏休みが始まるからな。 お知らせはそれ関連だろう。 そう思っていたが、アガサ先生の次の言葉は意外なものだった。




 「実は、転校生を紹介しようと思っているっ! 」




 ……は? え、今? それって夏休み終わってからじゃあないのか? と思っていた人間は俺だけではないらしく、周りがざわつき始めた。




 「ねえねえ、どんな人かな? 」




 ハジメが後ろを向いて話しかけてきた。




 「俺が知るかよ」




 「やっぱり、女の子がいいよねー! 」




 「はいはい」




 軽く流すと、




 「おい、お前らいいかー」




 とアガサ先生が話を止める。




 「まあ、今? っと思う人もいるかもしれない。 だがっ! 大切な青春の一冊を無駄にして欲しくないと思ってな! ガッハッハ!! 」




 1ページで去年充分足りた俺からは一冊もいる夏休みは知らない……。 しかし、なるほど。


 ただでさえアガサ先生が入ってくることによって気温が10度上がるというのにもかかわらず、わざわざ扉を開けっ放しにした理由が分かった。




 「では、入りたまへっ! 」




 要するに、その転校生がスッと入り──






















  俺の思考が止まった。
















 


 転校生の前髪が見えた瞬間。






 見えているものがただ見えているだけになった。






 転校生の体全体が、教室に入った瞬間、さっきいた体育館裏の5倍の蝉の鳴く音にも匹敵する程の音が教室中に響き渡る。








ガガガががララらららァァァァ……








 その音源は俺、ハジメを始め、生徒全員の椅子の引く音。








 そして俺らは〝 当然、頭を下げる。 〟








 微動だにもしないで。 




 


 教室中が緊張と静かさで満ちる。






 冷や汗で手がにじむ。






 聞こえてくるのは、外の蝉の声と隣クラスの音。




 ……そして、足音。






 ……何故だ? 何故、〝あのお方〟がいらっしゃる……?






 チラッとアガサ先生の方に目だけをやる。




 ポリポリと頭をかいて、どうしたものかと思案顔だった。




 ……アガサ先生は頭を下げなくていいのか……?






 そう不思議に思っていると、〝あのお方〟が声を出した。








 「……あの、顔をあげてください」








 とても透き通った声色だった。




 ただ、口調は少し戸惑っているようだった。






 俺らは〝恐る恐る〟顔をあげる。






 そこに立っていたのは、白髪の、美しい、ロングの髪をした少女だった。






 ……やはり、〝あのお方〟だ。 




 顔の頬に赤い、真紅のラインが入っている。


 そして、〝あのお方〟は続ける。


 ……ふーっと息を整えて。 


 しっかり前を向いて。




 「おはようございます。 有安から来ました、有安ソナ です。 ……気軽にソナって呼んでください。 」












 ──はは。 気軽に……だと? それを言うなら気重にだな。 


 出来るわけがない。 そんなこと。




 ましてや、〝あのお方〟こと、有安ソナ〝様〟


 のことを〝ソナ〟だなんて。




 呼ぶことは全員無理だろう。












 ……何故なら……〝コイツ〟らは……──


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