第二話 コーラ
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ハジメとは小学校からの付き合いだ。 小学校5年生の時に転入してきたハジメに俺が話しかけた。
……訳ではなく、逆で、ハジメが俺に話しかけてきたのだ。
正直、当時の俺は少なくとも愛想が良かったとは思えない。 そんな俺に話しかけてくれたのだ。 確か、俺は嬉し泣きしたんだっけ。 あ、気持ち悪いとは思わないでくれ。 自分でも今思うと少し引くな……
本当にハジメには、なんとも言えない気持ちになる。
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タラタラタラタラ歩いていると、校舎が見えてきた。
橋義高校だ。 全体は白で塗られていて、重々しい雰囲気がここまで届いてくる。 国の中でも有数の成績を誇るこの建物は年期を感じさせないほどきれいな状態なのだ。 それがより一層圧をかけているようだな……。
「あ、そうだ! 学校まで競争しない? 」
「は? 嫌だよ」
いきなり何かと思ったら……。 この暑い中をだと……?
「負けた方、コーラ驕りね! 」
嘘だろ、オイ……。 これはなんとも言える。 怠い。 さっきのお前に対しての堕涙の話、撤回しようかな。 そう思っている間にも、ハジメの背中はグングン遠のいていく。 その背中を追うべく、灼熱のアスファルトへ再度足を踏み出した。
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当然、陸上部のハジメに帰宅部の俺が勝てるわけもなく、学校にある自販機でコーラを買うハメになった。
ここは体育館の木陰。 涼しいかと思ったが、あまり変わらない。 ……そりゃそうだよなー。 あるのは、丸太でできた椅子が2つとテーブルが1つ。 それと自販機とその隣にあるクズ入れぐらい? あ、あと木がある。 それのお陰で直射日光は避けられるが、蝉の音量は5倍だ。 プシュッ! という缶の開ける音がした。 蝉とは違い、とても涼しい夏を感じさせる。
「ん……っん……っ……ップハッ! いやー美味いなー! 」
「それは良かったです」
「うん、もう最高だよ! 驕りコーラ! 」
「お前、わざと言ってんだろ……」
勝てるわけもない試合をさせて、挙げ句の果てに驕りまでさせられてる俺の気も知らないで……! そう思いながら、俺も缶を開ける。 プシュッという炭酸の抜ける音。口の中でコーラが弾けながら流れていく。 理不尽な試合によって熱された体が冷えていくのを感じ取る。 暑さでくらくらとしていた頭は正常に稼働してくれるようになった。
「んっ……。 ふぅー。 美味いな」
「ねぇー! だから走って良かったでしょ! 」
いや、そうはならないだろ。 充分、歩いても同じ気持ちを味わえる筈だ。 とは言う気力もないので、恨めしい目線だけを送り、再びコーラを口へ運んだ。
ハジメは怖いなーと笑いながら缶をクズ入れへ投げる。 大抵のことは何でも簡単にやってのけるこいつのシュートの結果。 予想通り、吸い込まれるように入っていった。
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