第24話 勇者という存在
状況を聞いてレミリアは疑問に思った。父が村長達が転移するまでの時間稼ぎの戦闘に加わるのはわかるが、何故母と一緒に家で倒れていたのか。
「なんでお父さんとお母さんは移転しなかったの?」
レミリアの両親はすぐに答えない。
「お父さん、答えて」
表情に出ないが、それは答えることを躊躇っているようにも見えた。指示の上乗せで強制力が強まったのか父は話し始めた。
「あの方からお預かりしたレミリアが戻らないままでは、死んでも逃げるわけにはいかなかった」
「え?」
どう聞いても、里親だとカミングアウトさせてしまった感じだ。
レミリアも年齢は大人だ。驚きはしたものの、あまり親と似てないことに納得していた。
こうなっては聞けて良かったのかもしれない。
「お父さん、ごめんね。あの方って誰?」
「言えない」
屍術の使役を跳ね除けるのだから、本当に言いたくないのだろう。繰り返し聞くのはやめておいた。
「君の魔力量や資質から考えると、君は結構上位の存在の血が入っているのかもしれないね」
「これでも少しショック受けてるんですけど」
レミリアは両親を見た。実の子でもないのに24年も見守ってくれたのだ。
「聞けることは聞いたし、僕は魔術や戦闘の痕跡を探すとするよ。いろいろわかるだろうから」
「私のことなのにごめんなさい、暫くここに居たいです」
「任せてくれたらいいよ。家族水入らずの邪魔をする気はないんだ」
自立するつもりだったレミリアが傀儡となって蘇った両親に依存することは無いだろうし、どうも今回の屍術は綻びがある。近いうちに正しい道に戻るはずだ。
アレイスターは村を見て回る。わかってはいたことだが、村を襲ったのは教皇庁の対魔族部隊「勇者」のパーティーだろう。
長老がかなりの手練れである以上、かなり実力のある勇者が加わったようだ。
教皇庁はエテメンアンキにある魔導学院の卒業生の中で、実力的にも思想的にも相応しい者を高待遇でスカウトし、「勇者」として各地の魔族との戦いに投入している。
魔族蔑視が酷い連中の集まりなので、今回のマイラ村のような事態になることはしばしばだ。
だが、それは教皇庁の体制が腐敗してしまっただけで、本来は誕生した魔人や魔王から人族を守るための仕組みなのだ。
村の戦闘の痕跡から、無属性魔法である『雷撃』の使用が確認できた。
アレイスターは魔導学院卒業時の同期に無属性魔法を使う勇者がいた。ある時、強力な魔人が誕生したため彼等とパーティーを組んで魔界の入り口まで追い込む作戦に参加したことがあった。
(まさか彼等の仕業だとしたら、レミリアが深追いしないように制御する必要があるね)
アレイスター程の者と肩を並べる、あるいはそれ以上の実力を持つ勇者もいるのだ。
だが、魔人の脅威から人々を守るために一緒に戦った彼らは、こんな非道なことをする人間ではなかった。
十中八九、別の人間の仕業だろう。
オルトロス召喚の痕跡は簡単に見つかった。
村の広場の地面が巨大な魔法陣になっていたのだ。
これなら村長の意思でいつでも発動できそうだ。
魔法陣を書き写した。
魔界に繋げて魔物を召喚するのか、単に決まった魔物を召喚するのか。魔導研究所に帰ったら試してみたい。
村の奥に大きな屋敷の跡があった。これが村長の屋敷だろう。移動術式には非常に興味がある。念入りに調査を始めた。
ぱっと見る限りは何もないので、地階に続く階段があるはずだ。
アレイスターは胸元から魔法陣を取り出して、地面の罠等を調査する魔術を発動する。
見つけた階段を塞いでいた瓦礫を土魔法で変形してから地階に降りた。
「これは凄い」
アレイスターは思わず声を出してしまった。
部屋中に魔法陣が張り巡らされている。残念ながら転移後に爆破する仕掛けになっていたようで、転移魔法陣の詳細はわからなかった。
転移魔法は地上では
書物でも無いかと思って探したが、ここには何もなかった。口伝だけなのだろうか。魔界に住む上級の魔族達は記憶を継いだまま転生を繰り返すらしいから、技術が失われることがないのかもしれない。
村長の老婆はそういった上級魔族なのだろうか。
とりあえず、調査はこんなものだろう。
つい昼も忘れて没頭してしまったが、
レミリアの様子を確認しておくことにした。
アレイスターが戻ると、レミリアは自宅があった場所で寝てしまっている。こんな形であれ両親が近くにいるので、安心して昨晩の疲れが出てしまったのだ。
レミリアが指示したのだろう。母は座ってレミリアを膝枕していた。父は直立したままだ。
オルトロスも近くで丸まっていた。一見平和な光景だ。
そのとき、アレイスターの魔力探知に何かが引っ掛かった。強力な魔力を帯びた者がこちらに近づいてきていた。
「レミリア、起きるんだ」
とりあえずレミリアを起こす。
レミリアは眠たい目を擦りながら起き上がった。
「アレイスターさん、なんですか」
気持ちよく寝ていたのにと言わんばかりだったが、
そうもいかないのだ。
「何者かが近づいてきている。かなりの魔力の持ち主だ。気をつけて」
話しているうちに、侵入者が姿を現した。
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