第23話 傀儡

木材や土で作られていた家は全て破壊され燃やされていた。その残骸や地面には魔法や斬撃の痕跡が、至るところに深く刻まれている。

燃えた跡に黒い炭が広がり、地面にはところどころに血痕が変色したと思われる黒い跡があった。焦げた遺体もいくつか見えた。


「お父さん! お母さん!」


レミリアは自宅のあった場所に駆け込んだ。

そこには2つ折り重なるように燃え尽きた遺体が横たわっていた。


レミリアの悲痛な叫びが響き渡った。

遺体を掴もうとするが、あまり燃えるものがなかったのか中途半端に炭化した遺体は、表面に触るとボロボロと崩れ、触ったレミリアの手は黒くなり、その部分から炭化した肉がこびりついた骨が覗いた。


再びレミリアが絶叫する。アレイスターは見れなくなりその場から離れた。

それからしばらくレミリアは叫び続けていた。


アレイスターは当たりを見渡す。

人口もわからないし、レミリアが落ち着かないと詳しい調査はできないが、どうも遺体が少なすぎる気がする。レミリアのように連れ去られたのだろうか。




アレイスターがしばらくしてレミリアを見にいくと、虚な目で座ったまま動かなくなっていた。オルトロスがレミリアの横に来て座った。

アレイスターはかける言葉が思い付かないので、黙って寄り添える獣を少し羨ましいと思った。


レミリアはオルトロスの方に向いた。

少しの間そのまま固まっていたが、目を見開くと両親の所へ四つん這いで移動する。両親に向けて再び手を伸ばした。


アレイスターにはレミリアが何をしようとしているのかわかった。


「やめるんだ! レミリア!」


アレイスターはレミリアに駆け寄った。レミリアを引き離そうとしたが、既にレミリアは闇の魔力を送り始めていた。不死化させようというのだ。


「離して!!」


感情を制御できていない、レミリアらしくない大きな声で拒絶されアレイスターは手を離してしまった。


もしかしたらレミリアなら希望を叶えるかもしれない。レミリアの為ではなく魔術への好奇心も手を止めた理由だ。

ただ、今までは死んだ直後の遺体にしか手を加えていない。ここまで劣化した状態で10日近く経過していて大丈夫なんだろうか。

意思のない腐敗した両親の遺体が動き回る様を見ることになるかもしれない。


レミリアが魔力を送り終えると、両親の姿は完全に蘇生され立ち上がった。父親は黒髪で頑丈な体格で、母親も黒髪でレミリアには似ていなかった。どちらも耳はやや尖っているが、角のような物は生えていない。


「なんてことだ」


賢者の石を使用した蘇生術でもここまでの奇跡は起こせない。アレイスターは身震いした。レミリアにかかれば墓場の遺体ですら蘇生されるのだろうか。


「お父さん! お母さん!」


しかし、両親はレミリアを見ない。黙って直立したままだ。


「返事をして!」

「「はい」」

「えっ?」


両親は揃って返事をした。アレイスターは事態を理解した。


「ふざけないで!」

「レミリア、落ち着くんだ」

「落ち着けるわけないでしょ! なによこれ!」

「君も理解しているだろう」


姿は両親だが、それは傀儡と化していた。


「こんなのないよ……」


レミリアはまた涙を流し始めた。

両親は慰めにも来ない。直立したまま視線は遠くを見ている。


どこまで指示に従うのか、記憶はあるのか。実は感情を表現できないだけで自我があるのではないのか。レミリアには悪いが、アレイスターは凄く気になってきた。


「アレイスターさん最低ですね」


顔に出ていたようだ。


「自我があるのか、記憶があるのか気になったんだ」


レミリアは言われたことを確かめてみた。


「お母さん、私が誰か答えて」

「レミリア」


名前はわかるし受け応えはきちんとするようだ。レミリアは状況を確認することにした。


「お父さん、村が壊されたときの事を教えて」

「数人の人族が村を襲撃してきた」


父が状況を語り始めた。レミリアが食材を探しに外に出た日だった。長老による探知魔術で人族の接近がわかった。成体の戦える者で逃走の時間稼ぎをしつつ、生き残った者と幼体と長老のばあちゃんは脱出したようだ。


「長老さんは凄く有能な魔導士なんじゃないかな。あとで痕跡を調べてみるけど、いろいろな魔術が使われている気がする」

「ばあちゃんは底が知れないです。みんなに文字や魔法を教えてたし。無事に逃げたって話ですけど、どこに行ったんでしょうか」

「聞いてみてくれないかい」


こんな状態でも両親が話し始め、村人も多くが逃げ通せたと聞いてレミリアはだいぶ冷静になったようだ。


「お父さん、ばあちゃん達がどこに行ったのか教えて」

「わからないが、長老の転移魔術が無事に発動するのを確認した」

「転移魔術だって!?」


そんな魔術、賢者の自分すら知らない。アレイスターはすぐにでも飛び出して痕跡を調べたくなった。


「アレイスターさん、後にしてくださいね」

「あはは。でも、ご両親は記憶があるみたいだね。完全に傀儡というわけでは無さそうだよ」


アレイスターはそれを聞いたレミリアの両親が反応した気がした。

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