第22話 マイラ村へ
宿屋に帰ると部屋に食事が運ばれてきた。
終わったら食器を外に出しておいてくれと言われた。
レミリアは酒場を出てからずっと寡黙だった。食事にも手を付けない。
「お父さん、お母さん、ばあちゃん……」
アレイスターとしても声の掛けようがない。
酒場で教会の部隊が戦果を挙げたと言われた。
集落でも見つからない限り、教会の部隊は動かない。レミリアの村かはまだわからないが、魔族の集落が襲撃を受けたのは間違い無い。そして、アレイスターが最初にマイラ村の位置をアルミダ近辺と予想している以上、最悪のケースが十分考えられた。
「レミリア」
レミリアは生気の抜けた顔でアレイスターを見た。
アレイスターは言おうとしたことを言うべきか迷ってしまった。自分でも困ることがあるのだと知った。
「レミリア、確認せずに帰る手もあるんだ」
自分は何を言っているんだと思う。その場面に立ち会いたく無い、自分が逃げているような気がしてくる。
「アレイスターさん、状況を否定してくれないんですね。マイラ村は無事だって」
「今回の件は希望を持つと、より辛いことになると思う」
気楽に考え過ぎていたとアレイスターは思う。レミリアが拐われた時点で、人族に村の位置とまでは言えないが、魔族の存在はばれていたのだ。
今思えばこうなる可能性は高いのだから、下手な予測など立てず、帰郷に反対しても良かったのかもしれない。
「君をここに連れてきてしまったのは僕の責任だ」
思わず本音が漏れてしまう。
「でも、本当に申し訳無いんだけど、君に真実を見せることしか、僕にできることは無いんだ」
「だから見ずに帰るなんて言うんですか? 見ないで帰ったって今まで通り生きていけるわけないじゃないですか」
ああ、決断してくれた。なんて強い娘だろう。
ならばアレイスターに出来ること、得意なことをするだけだ。
「君の故郷は必ず見つけるよ」
「お願いします」
しかし、レミリアは食事にほとんど手をつけなかった。
夜も更けた頃、アレイスターは以前に感じた疑問について再考していた。
オルトロスは何故現れたのか。あれは魔界では野犬並みにどこにでも彷徨いているらしい。しかしこの世界では魔界の門と言われる地域にしか生息していない。そこは大陸からかなり離れた離島であり、移動してくれば少なからず道中に被害が出るため、確実に討伐される。こんな大陸のど真ん中の辺境に突然現れるはずがないのだ。
そうなると、この辺りで最近、突然発生したと考えられる。しかも全く同時期に魔族の討伐があったのだから、それと無関係ではないはずだ。
2通りの可能性が考えられる。ひとつは、魔族討伐の為に教皇庁が召喚した可能性。しかし、制御不可能になり自国に被害が出るような方法を取るだろうか。
教皇庁には、そんなものに頼らずとも、魔族を抹殺できる体制がある。
なので、もう一つの可能性が最有力となる。あのオルトロスは魔族の村の最終兵器だったのではないだろうか。飼われていたのではなく、村長しか知らぬ禁忌の召喚術と考えればレミリアが知らないのも全く不自然ではない。オルトロスが生きている状態で、なんらかの理由で召喚者とのリンクが、切れてしまったのだろう。
アレイスターは答えがわかって嬉しくなり、また思考を漏らしてしまう。よく、独り言が多いと言われるのだ。
「オルトロスならマイラ村の位置がわかるはずだ」
「本当ですか?」
レミリアが起きていた。アレイスターは話すつもりではあったので、問題ないとこの瞬間は思った。
「どういうことですか?」
レミリアが聞くので、先程の考察を話してしまった。
レミリアは即座にオルトロスを召喚する。
「オルちゃん、マイラ村……あなたが目覚めた場所に案内できますか?」
オルトロスは首を縦に振った。
「ちょっと、レミリア待つんだ」
「どうせ眠れないんで行ってきます」
レミリアは荷物を纏めるとオルトロスに乗って、窓から飛び出してしまった。
アレイスターも飛行魔術で後を追う。
「居ても立ってもいられないというやつだね。仕方ない」
どうせ放っておいても栄養不足で衰弱するだけだ。
オルトロスは街を駆け抜け、外壁を越えて外に飛び出した。追いかけるアレイスターには見張りが騒いでいるのが見えたが、もう来ることもないだろうから構わない。
オルトロスの進行方向は、やはり先に寄った村の方向だった。森をどんどん抜けていく。
あるところで山道を外れて深い森の方へ入っていった。人が普段は寄り付かない場所だ。
そこを抜けた辺りでレミリアが気づいた。
「この辺りで食料を探していました」
「レミリア、オルトロスを止めて欲しい」
レミリアがオルトロスを止めた。
「どうしたんですか? もうすぐだから絶対引き返しませんよ」
レミリアは気丈にもそう言った。勢いだけで言っているように見える。
「覚悟はできているんだね……なら行こうか」
「もう。アレイスターさんご飯の時からずっと顔が真っ青ですよ」
自分はそんな切羽詰まった顔をしているのかと思った。
「申し訳ない。君が当事者だから僕がこんなことを言うのも烏滸がましいんだけど、僕は君が変わってしまうかもしれないのが怖いんだ」
それはレミリアが心を失ってしまうことなのか、憎しみに駆られて魔王と化してしまうことなのか。
今回は見ようが見まいが変わってしまう現実だ。レミリアは見ることを選んだ。
「正直、自信がありません。もう寝れないから動いているだけですし。でも行きます」
そろそろ朝日が差してきた。
レミリアは知った道を歩き始めた。
そしてたどり着いた先は……
廃墟と化したかつてのマイラ村だった。
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