第21話 アルミダの街

結局レミリアが寝付いたのは明け方だった。

おかげでずいぶん寝過ごしてしまった。

アレイスターは普通に起床したが、起こさずに待ってくれていたようだ。


レミリアは魔法で水を出して顔を洗うと、髪を整えてからアレイスターに起床を伝えた。


「アレイスターさん、寝過ごしてごめんなさい」

「おはようレミリア。よく眠れたみたいで何よりだよ」

「起こしてくれて良かったのに」

「今日も歩くからね。昨日は寝付けなかったみたいだし、身体は休めた方がいいんだ」


アレイスター全く非難せずに、優しい声をかけてくれたのだった。


昨日は収納しなかったので、不死者ペット達が寄ってきた。

オルトロスは太陽の下で見ても、レミリアの好みのもふもふの大型犬だった。

くっついて触りまくりたいが、あんまり他の子より可愛がりすぎるのも良くないのだろうか。


「朝食が済んだらすぐに出発だね。ホーンラビットとダイブイーグルはしばらく収納しておこう。魔物と一緒にいるところは見せられない」

「オルちゃんはいいんですか?」

「犬に擬態しているから大丈夫だと思う。君を乗せてくれると移動が速くなって良さそうだね」


まさに願ったり叶ったりだが、これもアレイスターの配慮だった。


昼には国境を越えたらしい。特に関所等は無かったため、後からアレイスターに教えられた。バリアントからの小道は主要な交易路ではないので、そういった施設は無いのだ。


「ここからは教皇庁領だよ。君にとっては敵地にも等しい場所だ。気を引き締めて欲しい」

「わかりました。でもばあちゃん達、なんでこんなとこに住んでたのかな」

「そう言われたらそうだね。このままアルミダまで行くけど、もしかしたらもうこの辺りか、もう少しフィーンフィル側なのかもしれないね」


オルトロスのおかげで、空が赤くもならないうちにアルミダの街が見えてきた。結構な移動速度だったが、アレイスターは難なく進んでいた。


アルミダは遠目に見てもわかるくらい大きな街だ。

バリアントの街くらいあるかもしれない。

教皇庁領ではその街の教会が政治の中心となっている。徴税官や警備隊も全て教会の人間だ。

教会の教義が魔族を敵とみなしている以上、レミリアにとっては敵地となる。

レミリアはフードを深く被り直した。


アルミダに到着すると、簡単なものではあるが入門手続きがあった。オルトロスは少し前に収納した。


「エルフの魔導士と従者だな。目的はエテメンアンキまでの巡礼と。相違ないな?」

「ありません」


門の受付の身なりは聖職者だったが、少し高圧的だった。


「従者の女、フードを取れ」


レミリアは固まってしまった。冷や汗が流れる。


「聞こえないか。フードを取れ。顔を隠されては困る。入門には必要なことだ」


アレイスターが何か唱えている。終わったのかレミリアに目配せしてきた。


「レミ、フードを取りなさい。申し訳ない、見ての通り色白なもので日焼けを気にしているみたいで」

「かしこまりました、アレス様」


レミリアはフードを外す。


「よし、通れ。あまり紛らわしい行為をするな」


特に問題無かったようで事なきを得た。角は良く見れば完全には隠れていない。

レミリアはすぐにフードを被り直す。

しばらく歩くとレミリアは口を開いた。


「びっくりしたあ。アレイスターさん何かしました?」

「うん、認識阻害の魔術をしかけた。僕も肝が冷えたよ。君は多分首都のエテメンアンキには入れないね」

「行きたいとも思わないです」


まずは今日の宿泊先を探すことにした。


「さっきのこともあるし、あまり人目に付きたくないから、食事は部屋で食べることにしよう。フードを被ったまま食事をするのも不自然だし」

「確かにそんな人いたら、やましくなくても怪しく見えますね」


中の上くらいの宿屋を選んだ。買い食いしなくても、部屋に食事を持ってきてくれるためだ。選択肢があるのも大きな街ならではだろう。


「じゃあ2人部屋で食事付き、金貨4枚だ」


アレイスターが支払う。カウンターは男性だったが、レミリアはフードの下から美しい顔が覗いているので、興味を引かれているらしく凝視された。


部屋はそこそこの広さだった。レミリアはオルトロスを出してもふもふしたかったが、夕飯まで少し時間があるので街に情報収集に出ることにした。


「どこがいいですかね」

「情報収集の定番としたら酒場だけど」

「私、大丈夫ですかね」

「まだ時間も早いし大丈夫じゃないかな」


2人で話しても仕方がないので、近くの酒場に入ってみた。

まだ日が出ているが、酒場にはそこそこ人がいた。

カウンターに2人で座った。

カウンターの中にいる男が注文を聞いてきた。


「いらっしゃい。兄ちゃん何にする? ってそっちは子供じゃねえか」

「従者なんだ。すまないが果実水を出してくれないか。僕はエールで」

「あいよ。銀貨2枚だ」


代金を払うと飲み物が並べられた。

カウンターに座る客とは話すことにしているのだろう。そのまま男が話を振ってきた。


「見ない面だな。旅行者か?」

「うん、いろいろ見て回ってるんだ」

「子供連れでか?」

「身の回りの世話をしてくれる者は必要だからね」


このままだと薄っぺらい会話で終わりそうだ。

どうせこの酒場くらいしか寄る時間は無さそうなので、少し危険だがアレイスターは踏み込んで聞いてみることにした。


「この辺りに魔族の村が無いか知らないかい?」

「あんた魔法使いに見えるけど、討伐狙いの冒険者かい?」

「まあ機会があればとは思ってるよ」


教皇庁の急進派は魔族の討伐を推奨している。表立って動くこともあれば、裏で冒険者に報酬を出して討伐させたりもしている。魔族の村を潰せば結構な報酬が出るのだ。


「それは残念だったな。つい最近、教会の部隊がこの辺りで戦果を挙げたと噂になってたぞ」

「おや、それは残念だね。今からじゃもう無理かな」


聞いているだけのレミリアは嫌な汗が流れるが、ここで騒ぐ程馬鹿ではない。


「どうだろうな。あくまで噂だからな」

「変なことを聞いたね。ありがとう」


アレイスターはこれ以上深入りしない方が良いと判断し、チップで銀貨を2枚渡した。

2人は飲み物を飲み終えてから酒場を出た。

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