第20話 双頭の魔犬
初めての野営になり、レミリアがせっせとアイテムボックスから出し入れした道具で夕飯を終え、寝床も用意した。レミリアは火の魔力の適性もあり、焚き火に火をつけることができた。
「僕のアイテムボックスをここまで活用してくれるなんて嬉しくなってくるね」
「一応お鍋と塩も入れてるんで、お弁当が切れたら料理もしますよ」
レミリアは旅行に行く時、荷物が山のようになるタイプのようだ。
森の中はジメジメしていて、辺りは静かで何かの鳥の鳴き声しかしないし、月の明かりもあまり届かず真っ暗だった。不気味だし、野営は初めてだったので、レミリアはなかなか寝付けない。
しばらくすると、ぴちゃ、ぴちゃ、と音がした。
「レミリア、何か来たよ。頭を屈めて様子を見よう」
「何の音でしょ。不気味なんですけど」
その瞬間、巨大な影が飛びかかってきた。
アレイスターがウインドシールドを展開する。
弾かれた巨大な影が近くに着地した。
アレイスターが光の魔力で辺りを照らした。
魔物の姿を見て、珍しく驚いて声を上げた。
「オルトロス!? なんでこんな魔物が」
魔物は首が2つある大きな黒い犬だ。よだれを垂らしながら、不気味に光る真っ赤な目でこちらの様子を窺っている。
「頭2つありますよ? どうなってるんですかこれ」
「生態はよくわからないよ。身体中に毒蛇が生えてるから不用意に近づかないように。君の不死者で牽制できるかい?」
レミリアが召喚するとホーンラビットとダイブイーグルがオルトロスの周りでうろちょろし始める。
オルトロスは別に気にする様子もない。
「君1人では流石に難しそうだね。とりあえず僕が先手必勝でいくから、闇障壁で防御をしっかり頑張って」
言うとアレイスターは凄い速さでオルトロスに接近して、すれ違い様にオルトロスの脇腹に爆発を起こした。
傷ついたオルトロスは距離を取るとレミリアに飛びかかってきたので、レミリアは闇障壁でガードする。オルトロスは前足や頭突きで闇障壁を殴る殴る。
「アレイスターさん! 無理です!」
レミリアは涙目だ。
オルトロスは大きな口を開けるとブレスを吐き出した。闇障壁が消し飛ばされ、レミリアが吹き飛ぶ。
間一髪、アレイスターがレミリアを受け止めてウインドシールドを張る。
「レミリアを狙ってくるよね。やっぱり犬は賢い。それにオルトロスはスピードが凄いんだ。怪我は無いかい?」
「かすり傷は治っちゃうから大丈夫です」
「なら良かった。隙を作って首を跳ねたいから、ちょっと君にも頑張ってもらうしかないね。ウインドシールドを残すから、闇撃で奴の気を引いてくれるかい」
アレイスターは闇に紛れた。レミリアは闇撃をオルトロスに撃ちまくる。一発当たると、痛かったのかオルトロスは回避し始めた。
「当たらないや。こういう練習もいるのね」
オルトロスが再び飛びかかってきたとき、アレイスターの魔法が放たれる。
『ウインドカッター』
オルトロスの首が片方飛んだ。バランスを崩したオルトロスは着地してよろめく。
「首が落ちたのに生きてますよ!」
「首が3つある上位種もいるけど、どうなっているのか全部首を落とすまで生きてるね。君の訓練も兼ねてもう1つの首は君に潰してもらう。あれが逃げる前にやるよ」
アレイスターはすぐに魔法陣を取り出して魔力を込める。
『バインド』
アレイスターがオルトロスを拘束する。
「レミリア、闇撃を全力で撃つんだ」
魔力を全集中する。全てを流し込む。
『闇撃!!』
後先を考えない全力の闇撃を撃った。オルトロスの頭が消しとんだ。残された身体が倒れて動かなくなる。
「やった!」
「頑張ったね。これは並の人族には手に負えない。なんでこんなところにいるんだろう」
巨大な骸を見ながらアレイスターは考えているが、特に合理的な理由は思い付かなかった。
レミリアにオルトロスを使役するように言った。
「魔力はまだ大丈夫かい? さっきの闇撃で使い果たしているならこれを飲むんだ」
アレイスターはバッグから小瓶を出した。
「なんです? これ」
「マジックポーションだよ。飲むと魔力が回復する。一本では君は全快しないだろうけど、おそらくこれで大丈夫だろう」
実際、さっきので魔力を使い果たしてしたので、恐る恐る飲んでみた。
アレイスターは苦笑している。
「結構貴重なものなんだよ」
「なんだか甘くて美味しいです。身体がぽわっとしてきました」
「この先必要になると思うから、屋敷に帰ったら調合も教えてあげるよ。君の魔力なら十分に作れるだろうから」
調合には魔力を使う。魔力を使って体力や魔力を回復させるアイテムを作る。調合という行為は魔力を後で使うための保管魔術だとアレイスターは考えている。代償は薬草等の材料だ。
「どうだい? 屍術はいけそうかい?」
「やってみます」
オルトロスに近づき、闇の魔力を流し込む。
近づくとよくわかるが、体毛のように見えたものに全て目と口があった。
「これ、使役するんですか……」
「ちゃんと集中するんだ。気持ちが大事なんだろう?僕にはわからないけど」
しばらく流し込むと、オルトロスは潰れた首までもが完治した状態で起き上がった。
オルトロスはレミリアを見ている。
「僕はきっと素晴らしい現象を見ているんだろうね」
今までに無い経験に、アレイスターは歓喜して顔が高揚している。
目の前の魔物並みに気持ち悪いとレミリアは思う。
「オルトロスくらいの上位魔獣は、外見を変化させることができるはずだ。指示してみるといい」
「えっ? そんなことできるんですか」
レミリアはオルトロスに語りかけた。
身振りも合わせて説明を始める。
「あの、このくらいの大きさの犬くらいになれないかな? できたら蛇と首も目立たないように」
オルトロスがコクリと頷くと、身体が縮小する。
狼くらいの黒い犬の姿になった。普通の毛並み、普通の頭になっている。
レミリアがオルトロスに抱きついた。
「わあ! かわいい! 私、犬を飼いたかったの」
「君、なかなか現金だね……」
オルトロスは満更でもなさそうに座り込んだ。
「オルちゃん、ちょっと臭うから身体を洗うね。大人しくしててね」
レミリアは水の魔法でオルトロスを洗っていく。ホーンラビットとダイブイーグルも洗って欲しそうに来たので、洗ってやった。
それから再び就寝となったのだが、レミリアはマジックポーションの影響か戦闘の緊張のせいか全く寝付けず、半泣きで薄気味悪い森の中でずっと起きていなくてはならなかった。
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