第16話 故郷の場所
次の日、アレイスターの部屋に行くとアイテムボックスが完成していた。渡されたが、外観はなんの変化もない。
「僕が合図するまで、この魔法陣に魔力を込めるんだ。闇でも壊れないけど、なるべく素の魔力にした方がいい。それで君が所有者として登録される」
レミリアは魔法陣に触れて魔力流し込む。アレイスターはなかなか合図をしてくれない。魔力を流しながら聞いてみた。
「これ、かなり魔力が要るんですか?」
「そりゃそうだよ。アーティファクトを甘く見られたら困るね」
並の魔導士なら3日はかかるらしく、しばらく流し続ける羽目になった。アレイスターが合図をする頃にはふらふらしていた。
「疲れました。今日はもう何もできません」
「いやはや、大したものだよ。枯渇する可能性は考慮していたんだけどね」
何はともあれ、アイテムボックスを手に入れた。
「アレイスターさん、ありがとうございます。大事にしますね」
「人前ではなるべく使わないようにするんだよ」
「気を付けます。でも、何か入れたいですね」
レミリアは周りをキョロキョロ見渡した。本以外何もないけど。
「最初に見せてもらった闇の魔導書って本、もらえませんか? 入れといたら便利そう」
「あれもアーティファクトだから絶対だめだよ」
アレイスターの魔導書はその属性の魔術の辞典だ。
魔道具になっていて、現在進行形で強く隠蔽された新魔術でもない限りは勝手に情報が増える。
禁術なども網羅されているので、危険なのだ。
「アレイスターばっかりズルいです。ぶー」
「僕もいろいろ制約があって大変なんだけどね。何か知りたい魔術でもあるのかい?」
「いえ、特にないです」
「僕はたまに君がわからなくなるね……そういえば、課題はちゃんとできたのかい?」
「ふふふ」
えいっとばかりにホーンラビットを取り出して、また収納した。ちょっとかわいそうだ。
「もう術名まで飛ばせるんだね」
「昨日は早く終わっちゃって暇だったので」
「君は底が見えないね」
「そういえばアレイスターさんに相談があるんです」
「なんだい改まって」
故郷に一度帰りたいことを伝えた。でも場所がわからないと。
魔族の隠れ村を探すのはなかなか難しいことだ。彼らは理由があって隠れているわけで、認識阻害で気づきにくくしている村もある。
「君が拐われた日から1週間でこの領地に来たのは間違いないのかい?」
「はい、ちゃんと数えてましたから」
「もう少し詳しく教えてくれないかな」
レミリアはキノコや山菜を摘む日課で、山に出ていたところを、袋を被されてそのまま連れ去られた。
荷馬車か何かに運ばれて、その日のうちには建物に閉じ込められた。
「建物は何でできていたか覚えているかい?」
「良く覚えていないけど、石畳が痛かった気がします」
翌日に契約書に無理やり血判を押され、その次の日に移動させられ、割と寄り道せずにここまで来たらしい。怖すぎて、毎日朝から晩まで泣いていた気がする。あまり思い出したくはない。
「すまないね、辛いことを思い出させて。だいたいわかったよ。ここから4ー5日くらいの位置で奴隷商の拠点がある街となると、教皇庁領のアルミダしかない。そこに荷馬車で1日以内に行ける場所なんて限られている」
「私帰れそうですか?」
「場所はなんとかなりそう。近づいたら君もだいたいわかるよね?」
「食料を集めていた場所くらいならわかりますけど、あんまり遠くには行かないように言われてたから」
村に認識阻害をかけていそうだ。前に火や水の魔法を生活に使うとレミリアから聞いている。知識のある者はいるだろう。
「まあ僕も行くから大丈夫だよ。君のための課外授業と思って行こう」
「アレイスターさん来てくれるんですか? 心強いですけど」
「君は自分で思ってるよりは危ない立場だからね。あとで心配性のベオウルフに報告しにいこう」
「やっぱり報告要りますよね」
善は急げとベオウルフに報告に来た。伝えると、憮然とした顔をしている。
「レミリア、お前故郷に戻りたいのか」
「拐われていきなり連れてこられたし、無事な事は伝えないと。やっぱり私も気になりますし」
「確認した後どうするんだ?」
ベオウルフあからさまに不機嫌そうだ。誰がどう見ても行かないで欲しいように見える。
子供っぽい態度だったが、レミリアはちょっと嬉しくなった。
「戻りたいと思ってますよ。魔術の勉強もあるし友達もいるし、こっちの方が楽しいです」
「なんだ、そうか」
ベオウルフがホッとしたような声を出した。
レミリアの横でアレイスターが吹き出すのを我慢していた。
ベオウルフはアレイスターを睨む。
「今回は僕が同行するから安心してくれていいよ。場所もだいたいわかったし。君は留守番していてくれると助かるね」
「アレイスター、レミリアを頼む。二人とも気を付けろよ」
故郷に帰ることになった。
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