第15話 ストックアンデッド

レミリアは部屋でアレイスターから出された課題を見ていた。


【使役する不死者の収納魔術を覚えること】


不死者の出し入れの方法が羊皮紙に書き出されていた。

闇の魔導書をそのまま貸さないのは何故だろう。

アレイスターが前に言っていたアンデッドを収納したり出したりする魔術。


早速、中庭に練習相手のホーンラビットを探しに行った。


「うさぎさーん、どこですか」


井戸の横からひょこっとホーンラビットが顔を出した。ぴょんぴょん近づいてくる。

呼んでいないのにダイブイーグルも降下してきた。


「ついてきてね」


そこでサロンの場所がわからないことに気づいた。

ペット、ではなく魔物を連れて大丈夫だろうか。

サロンの場所を誰かに聞こうと彷徨いていたら、案の定、兵士長のオズマに呼び止められた。

オズマは体格は良いが兵士という雰囲気ではない中年の男だ。


バリアント領では、兵士は一部を除いて農民の兵役で賄っており、職業軍人はほぼいない。兵役の間だけ寄宿舎で生活するのだ。オズマのような管理職も、農民上がりを雇用している。


「魔物を城内に持ち込むな!」

「一応、ベオウルフさまの許可はあるんですけど」


無理もない。ホーンラビットはともかく、ダイブイーグルは仔牛を捕食したりするので、結構危険な魔物に該当する。


「どちらか連れて行く必要があるので、ホーンラビットだけは許してください」

「仕方あるまい」

「とりさん、また待機しておいて」


ダイブイーグルは声をあげてから空に帰って行った。

オズマはやや畏怖する目でレミリアを見ている。


「サロンの場所を教えてもらえませんか?」


オズマにサロンまで案内してもらった。




サロンは確かにだだっ広い。貴族の社交等で使うパーティー会場だ。

一生無縁とは思うが踊ったりするのだろうか。


羊皮紙に書いてあるやり方によると、手元に魔力を集中して、そこに対象の不死者を流し込むイメージをすると書いてある。なんのこっちゃだ。

アレイスターの注釈がある。


【最初は『ストックアンデッド』と詠唱するといい。魔術名は言わなくても発動するけれど、唱えた方が安定するはずだよ】


レミリアは試してみた。


『ストックアンデッド』


手を広げて唱えると、手元に闇が現れて、ホーンラビットを吸い込んで消えた。一瞬のことだった。


(一回で出来ちゃった。アレイスターさんの言う通り、私って優秀?)


次は、ホーンラビットが無事なのか、すぐに出して確かめてみる。

サモンアンデッドについてはアレイスターの注釈は特になかった。


『サモンアンデッド』


前に出した手から闇の魔力が溢れてホーンラビットが現れた。


「うさぎさん、大丈夫?」


ホーンラビットは首をかしげている。よくわかっていないようだ。

ダイブイーグルも庭で収納し、アレイスターの課題は達成できた。




その頃、アレイスターは扉に鍵をかけ、アイテムボックスの作成にとりかかっていた。


アイテムボックスのレシピは古の「賢者」が残したもので、特別な材料が必要だが、その材料さえあれば簡単につくれる。

アレイスターはレミリアのバッグを取り出すと、金具の付いた外カバーの裏に目立たないように魔法陣を描き始める。万が一アイテムボックスだとバレると面倒なのだ。


描き終えると、特別な材料を使用するために精神を集中する。アレイスターの根源にある「賢者の石」を作動させるためだ。アレイスターの身体が輝きを帯びる。

賢者の石はこの世の全てであり、全ての代わりになるもの。どのような入手・達成困難な要素でも、代替品として魔術に使用することができる、アレイスターの権能だ。


アレイスターは現在は世界に一人しかいない賢者の石を持つ者、賢者だった。

あらゆる魔術に精通し使いこなすことができる。それは魔術に必要な要素をなんでも一度にひとつだけ、賢者の石で代替できるからだ。たとえ命でさえも。


魔法陣と賢者の石が反応して、レミリアのバッグはアイテムボックスへと変異した。

このレシピにおいて賢者の石は代替品でしかない。真の必要材料は古の賢者でもわからなかった。


アレイスターは力を失ったように椅子にもたれかかる。賢者の石を使用すると、半日は立てなくなる程消耗するのだ。


(これで明朝まで動けない)


それが、明日渡す理由であった。

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