第14話 お気に入り
すっかり話が脱線していたことに気づいた。
「材料のバッグはちゃんと買ってきたのかい?」
「はい、これです」
「女の子はこういうのを選ぶんだね。頑丈そうだし、この見た目ならアイテムボックスとは見られなくていいかもね」
アレイスターはバッグを細かくチェックしながら言った。
「では預かっていいかい? 明日にはアイテムボックスにして返すから」
「わかりました。よろしくお願いします」
アレイスターにバッグを渡す。
「結構大仕事になるから、僕は明日まで動けないと思う。君には課題を用意したから、片付けておいてくれるかい」
そう言いながら、アレイスターは羊皮紙をレミリアに渡した。
「魔導書から抜粋した魔術のレシピだよ。君の役に立つ魔術を選んだから、頑張って欲しい」
「魔術の練習ですか? いつもの原っぱに行ったらいいですか?」
「いや、君を一人で外に出すのはまだ早いかな。気をつければ君の部屋でも出来なくはないと思うけれど……ベオウルフ、誰も使ってない広い部屋は無いかい?」
「そうだな。もう爆破の心配は無いんだよな? 前にノイマンが慌てていたが」
レミリアの頬がピクッと動いた。ベオウルフの顔を見れない。
「今回のは大丈夫だよ。それに、もうレミリアは魔力の操作ができるし」
ベオウルフは少し考える。
「だだっ広いといえば1階のサロンだな。親父が死んでからは使ってないから、埃っぽいかもしれんが。レミリア、昼飯でも食っててくれないか。その間に開錠させておく」
「私が入っていいんですか?」
「構わないが、物は絶対壊すな。俺がノイマンに怒られる」
「え、ちょっと不安なんだけど」
「まあ、心配せずに行っておいで」
「わかりました。では失礼しますね、ベオウルフさま、アレイスターさん」
レミリアは羊皮紙を持って出て行った。
少し間を開けてベオウルフが口を開いた。
「アレイスター、お前のアイテムボックスは
「まあね、彼女が欲しがったから何とかするまでさ」
「お前、随分レミリアを買っているな」
「うん、非常に面白い娘だからね。一緒にいると退屈しないから気に入っているよ」
ベオウルフは黙ってしまった。
「でも君ほどじゃない。君自ら買い物に付き合っていたんだろう? なんとなくレミリアはエレオノーレに少し似ているね」
「いくらお前でも怒るぞ」
「ごめんごめん。まあ心配しないでよ。前にも言ったけど、僕は親友の大切なものを奪ったりしないさ」
「やめろ。あいつはそんなんじゃない」
「そうかい? じゃあ、ちょっと時間がかかる作業なんだ。君も出て行ってくれるかい」
「ああ、邪魔したな」
「あと……」
アレイスターはベオウルフを見て言った。
「僕の権能のことは、レミリアには絶対内緒だよ。今は知られたくないんだ」
「わかった。だがお前は有名人だろう。そのうちどこかで知ると思うがな」
「その時は仕方ないよ」
ベオウルフも部屋を出て行った。
レミリアは言われた通り、遅めのお昼にすることにした。
「ホノさん、ご飯まだ大丈夫です?」
「大丈夫だよ。温め直すからちょっと待ってな」
ホノが厨房に入って行く。
隣のメイドの控え室からノーラの元気な声がしている。
内容はわからないが。
(ノーラは元気だなあ)
その時、メイド控え室ではノーラとアンナが一緒にお昼を食べていた。
昼食の配膳を終えたアンナと、帰ってきたノーラのタイミングが合ったのだ。
ノーラが元気良くアンナに話しかけていた。
「領主様が大人っぽく、ささっとレミリアの会計を自分が支払うって言ってさ、ついでに私の分も買ってくれたの」
「へえ、領主様やるじゃん」
「私が慌ててたら、女に金を出させるなんて俺の面子が許さないとか言ってくれて」
「なにそれ、かっこいいじゃん」
「そう、領主様かっこいいの!」
ノーラはハイテンション、アンナは引き気味だ。
「でも、レミリアは領主様のこと、気になってるみたいなんだよね」
「なんでわかるの?」
「元気無かった日に、領主様がレミリアのためにいろいろしてること教えてあげたら、嬉しそうにしてたから」
「ああ、あの時ね」
レミリアがアレイスターと話して心折れていた時。レミリアが惣菜を残していたのを見て眉をひそめてしまった。アンナの実家は肉屋だ。肉を残す奴は許さない。
「レミリアと領主様を奪い合う気はないの」
「あんた何いってるの」
「私は領主様の2番目を狙うよ!」
アンナはスプーンを落としてしまった。
王国では一夫多妻は別に珍しいことではない。モラルとして全く問題ない。
逆にエルフや魔族は契約を重んじるので、一夫一妻の者が多い。
(男に何か貰ったの初めてだったんだろな。まあ色男ではあるから生娘のノーラがこうなるのも無理はないか)
ちなみに、アンナは下町に彼氏がいる。
ノーラが大火傷しないように願うばかりであった。
ホノが食事の乗ったトレイを運んできてくれた。
きのことソーセージがたくさん入ったポトフとパンだった。
カウンターで食べさせてもらっていると、
ノーラとアンナがトレイを返しに来た。
「あ、レミリア、用事終わったんだね」
「うん、やっとご飯なの。あ、アンナさんもこんにちは」
「私もアンナでいいよ、レミリア」
「わかりました!」
そういえば、ホノにスイートポテトの作り方を聞くつもりだった。
「ホノさん、スイートポテトの作り方知ってます?」
「ああ、わかるよ。また作っといたげようか?」
「できたら作り方も教わりたい!」
ノーラも乗ってきた。
「そうだねえ、普段はそこまで余裕ないからさ、また作るときに呼んであげるよ」
厨房はホノひとりだから時間が無さそうだ。
まあ作ってくれた方が、楽でいい。
「プレゼントを渡したい男でも現れたら、ちゃんと厨房貸してあげるから言いな」
ノーラが真面目な顔をして聞いていた。
重症だとアンナは思った。
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