第13話 革のバッグ

おやつを終えてから、ノーラおすすめの革屋さんに向かった。

店には女性向けの飾りが付いた革製品がたくさん並んでいた。


「冒険や訓練、下手したら戦闘に持ち出すから、紐が切れにくい肩掛けのポーチみたいなのがいいってアレイスターさんが言うんだよね」

「それなら、これとかどうかな」


ノーラが、全体が真っ白で、ベルトのような肩紐がしっかり縫い付けられたバッグを持ってきた。大きさも本が一冊入るくらいで丁度いい。飾りも何箇所かに施され、とても可愛い。


「すっごく可愛いね! もう決めちゃおうかな」

「そちらはホワイトキラーバイソンの革を使用しております」


店員さんが材料を教えてくれた。


「んー、でも真っ白だと、レミリアの用途だとすぐ汚れちゃうかな?」

「そうねえ、無難に茶色がいいのかなあ」

「それならこちらはいかがでしょう」


店員さんが同じデザインで赤味がかった鮮やかな茶色のバッグを持ってきた。


「こちらはデザインは同じでレッドボアの革を使用しております」

「この色なら綺麗だけど汚れは目立たなそう」

「もうこれでいい気がする」


もう少し店を見て回った。

ノーラは白が好みらしく、最初のバッグの白い革で作られた財布を眺めていた。


「もう決めたのか? あんまり遅いと今日中に作れなくなるぞ」


すっかり忘れていたことをベオウルフが聞いてきた。


「忘れてた! さっきの赤いバッグにします。おいくらですか?」


結構高かったけど、修行の戦利品の肉とかを城に渡した時に少しお金をもらっていたので、アレイスターから渡されたのと足したらなんとかなりそうだ。


「では、そのバッグと、あそこの白い財布をくれ」

「かしこまりました」

「「えっ??」」


ベオウルフが店員さんに指示した。


「ベオウルフさま、いいんですか?」

「せっかくだからな。一応領主だから金は持ってるから気にするな」


何がせっかくなのかはわからないがベオウルフは払う気満々のようだ。

ノーラは恐縮している。


「領主様、そんな申し訳ないです」

「お前らみたいな若い娘と買い物に来て、金を払わせるなんて俺の面子に傷が付く。今日はレミリアに付き合ってくれて助かったお礼だ」


ノーラは感激したようで、目を潤ませている。

こいつマジで少女嗜好だったんじゃないかとレミリアはジト目でベオウルフを見ていた。


「何か悪いこと考えてるだろ」

「いえ、何も」

「ほら、これはお前のだ。だいぶ遅くなったから急いで帰るぞ」


バッグの入った包みをもらった。ノーラも受け取って大事そうに抱えていた。

レミリアはそれを見て、ベオウルフに心底感謝した。


「ベオウルフさま、ありがとうございます」




お昼もだいぶ過ぎた頃、屋敷に戻った。


「ノーラ、いい買い物が出来たよ。ありがとう」

「とっても楽しかった!また行こうね!領主様、ありがとうございました」


お昼をノーラと一緒に食べたかったのだが、アレイスターを待たせているのでノーラにお礼を行って別れた後、何故かベオウルフと一緒にアレイスターの部屋に行く。


「ベオウルフさま、領主のお仕事いいんですか?」

「ノイマンがいるからな。奴に任せておけば問題ない」


レミリアは遠回しに仕事に行くよう促してみたが、全く行く気は無いようで、そのままアレイスターの部屋までついてきた。

レミリアはドアをノックする。


「アレイスターさん、入りますよ?」

「ああ、やっと帰ってきたんだね。入っておいで」


中ではメイドのリリがアレイスターのお昼ご飯を下げていた。


「リリ、僕は今晩は部屋にいない。夕飯は必要無いから」

「かしこまりました」


リリはベオウルフとレミリアに会釈すると、部屋を出て行った。

部屋は安定の散らかり様だった。

足の踏み場もない状態に、ベオウルフが文句を言う。


「相変わらず散らかり過ぎだ。お前の召使いは何をしているんだ」

「リリには資料にはあまり触らないように言ってあるからね。食事ひとつ置くのが大変そうで申し訳ないとは思ってる」

「なら少しは片付けろ」

「まあ、君のために急いでいるんじゃないか」


仲がいいのか悪いのかわからない人達だった。

レミリアはお前の召使い、という表現が気になった。


「アレイスターさんの召使いって、リリのことですか?」

「うん、言ってなかったね。彼女は僕が連れてきたメイドなんだよ。元の職場から連れてきたんだ」

「元の職場? アレイスターさん、どこで働いてたんですか?」


アレイスターはベオウルフを見た。話して良いか確認しているようだ。ベオウルフは頷いた。


「別に構わないぞ」

「僕はフィーンフィル王国の魔導研究所に所属していてね。一応、王宮魔導士なんだ。リリはそっちで雇っていたんだよ」

「へえ、そうなんですか」


フィーンフィル王国は魔導の研究が進んでおり、魔導王国と言われているくらいだ。その力で、強大なガラリア帝國からの侵略を人族国家としては唯一防いでいる。


「こんな性格だが、こいつは国内トップクラス、世界でも敵う奴はいないかもしれない。魔導だけはな」

「やめてくれベオウルフ。個人でできることなんてたかだか知れてるからね」

「アレイスターさんが物知りな理由がわかりました」


魔導を語り出すとちょっと気持ち悪い理由も、と心の中で付け加えた。

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