第12話 スイートポテト
アレイスターがレミリアにアイテムボックスを作ってくれることになった。
「せっかくだから、好きな鞄でも選んできたらいいよ。それを加工してあげよう」
そんなことを言われたので、ノーラにお願いして一緒に街に買い物に行くことにした。
アレイスターは留守番して、レミリアとの訓練で遅れ気味の仕事を取り戻すつもりだ。
ノーラは非番ではなかったのだが、アレイスターに頼まれたベオウルフの口添えもあり、領主のお使いということになった。
商店街は領城の南側にある。
正門がある南側は外から来る商人や宿泊客に一番対応しやすい場所となり、自然と商店、商会、宿屋、飲食店が集まる。
西側は兵士の宿舎や裕福な者の居住区があり、東側は工房やその関係者の居住区、北側は貧しい者が住んでおり少し暗い雰囲気だ。
いつも南門から出て魔術の練習に行くが、素通りしているのでどこに何があるかわからない。
活気的な南町の雰囲気は歩いているだけで心が躍る。しかも友達と初のお出かけである。
「ノーラ、こんにちは」
「レミリア、誘ってくれてありがとう!」
「ごめんね? 急な話になっちゃって。鞄を買いたいんだけど、可愛いお店とか教えてほしいの」
「任せて! それはいいんだけど……」
ノーラがそう言いながら後ろを見る。
後ろから男がついてくる。別に怪しい者ではないが。
「ベオウルフさま、一緒に歩かないと尾行してる変質者に見えます」
「うるさい。少し離れた方が周りをよく見れるんだ」
「レミリア辛辣……領主様によくそんなこと言えるね」
ノーラの外出許可に協力してくれたものの、ベオウルフは自分もついてきた。
レミリアは先日の奴隷商人に顔が割れているため、念のための護衛だ。
「兵士に頼めばいいのに、やっぱりレミリアは大事にされてるよ」
ノーラは目をキラキラさせながら言う。二人の関係に興味津々なのだ。
実年齢は同年くらいなのだが、成体になっていないレミリアとベオウルフで釣り合うのだろうか。
「そんなの関係ないよ!私だってあと2年で成人なんだよ?レミリアも数年の話でしょ?そしたら大人の仲間入りなんだから」
王国では15歳を成人としており、婚姻をできるようになる。魔族はもう少し適当なので、レミリアの村は村長のばあちゃんのさじ加減だった。
「ちょっとノーラ! 声大きい」
「えー? レミリア照れてる?」
ベオウルフは居心地悪そうにしていた。
商店が並ぶ通りに着いた。
果実水の露天がたくさん出ている。
「革屋さんに入る前に、ちょっと買い食いしよう!」
「賛成!」
ノーラの提案でベオウルフが三人分の果実水を買ってくる。
空いているベンチにみんなで座った。
「「ベオウルフ(領主)さま、ありがとうございます!」」
「ああ。歩き疲れてるだろ。何かあれば食い物も買うぞ」
「うーん?」
レミリアが鼻をひくひくさせる。
「何の匂いかな。甘くて良い匂い」
「果実水じゃなくてか?」
「んー?あそこじゃないの?」
焼き菓子を売ってる露天があった。
近くに行くと売り子のお姉さんに声をかけられた。
「いらっしゃいませ」
「いろいろあるね! どれにしようか迷う」
「ベオウルフさまがいるし全種類制覇?」
「太っちゃうよ!」
レミリアはさっきから良い匂いがしている、艶々した黄色い焼き菓子を選んだ。
「これはスイートポテトですよ。さつまいものお菓子です」
売り子のお姉さんが教えてくれた。
レミリアは驚いている。
「さつまいも!? アレがこんな美味しそうなお菓子になるんですか」
「アレって、レミリアさつまいも嫌いなの?」
「ううん、そういうわけじゃないんだけど」
レミリアの故郷のマイラ村は魔族の隠れ村だ。
人族に見つからないように隠れて暮らしていた。
食糧を時給自足しないといけなかったのだが、主食を作る上で、広大な整地された土地が必要で、しかもたまに休作が必要な麦は、マイラ村には向かなかった。
どこでも作れる、何度でも植えれる、保存も効くさつまいもが主食になっていた。
それだけのことだ。
「魔族って大変なのね」
「まあさつまいも、美味しいから嫌いではないよ」
「なるほどな。不作の時は重点的に植えてみるのもありか」
ベオウルフは無駄に感心していた。
そんな話を聞いたので、結局スイートポテトを3個買って、ベンチに戻ってみんなで食べた。
「美味しい! こんなお菓子知ってたら毎日でも作ってたかも」
「ホノさんなら知ってるだろから、作り方聞いてみようよ!」
「絶対聞く!」
レミリアは、さつまいもの話をしていると、一度故郷の村に帰りたくなってきた。
突然いなくなって皆心配しているだろう。
ただ、アレイスターとの訓練もまだ途中で、投げ出したくはない。
道もわからないので、とりあえずアレイスターに相談してみようと考えていた。
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