第6話 魔導の説明
アレイスターは、先程持ってきた一冊の本をレミリアの前に移動させた。
「これは、魔導書だ。魔法や魔術についてまとめられている。これを見せる前に、レミリアには魔導のことを一通り説明したいと思う」
「え、お勉強苦手なんですけど」
「まあ聞いてくれるだけでいいからさ」
アレイスターは説明を始める。
魔導とは、魔力を消費して、自然には起こり得ない事象を発生させる技術である。大まかだが、魔法と魔術に分類される。
使用する魔力の出処は、自身、他人、自然、魔導具等々、様々なケースがある。体内の魔力は鍛錬による伸び代はあるが、到達できる内包量や持てる属性が種族や遺伝である程度決まっている。
属性は火、水、風、土、光、闇、無属性の7種類が認められている。
使える属性は生まれた時から決まっている。
その属性の神の加護でもない限りは増えることはない。
「君には闇の魔導の高い資質があると、僕は見ている。ただ、魔族は複数の資質を持っている場合が多いから、恐らく他の属性も何か使えるとは思う」
レミリアは頭がぐるぐるしている。
結局、この人は何が言いたいんだろうか。
レミリアの目が泳いでいるのをアレイスターは見逃さない。
「ここまでは理解して欲しいんだけどね。ここから少し難しくなるから」
「努力します……」
アレイスターは説明を続ける。
魔法とは、魔力を属性の個々の特性に合わせて、単純なエネルギーや物質として発現させ、使用する技術。
例えば、火なら魔力を火炎という形で発現し、何かを燃やすとか、他人にぶつけるとか。水なら水を作り出すとか。
消費する魔力量次第で絶大な威力の攻撃や連打ができるものの、魔力の使い方としては単純で分かりやすい。
「魔法使いという存在なら割と知られていると思うんだけど。
「たぶん、村でそういう力を生活に使っていましたよ。水を出したり、火をおこしたりしてくれる人がいましたから」
今の話を聞いたから理解できるのだが、村では成体になった者に、魔法を教えていたようだ。
成体になっていないレミリアは教わったことも使ったこともない。
資質などあるのだろうか。
「火、水、風、土属性は生活と結びつくから、あると便利だね」
闇属性。レミリアはベオウルフを包んだ黒い雲のことを連想する。アレイスターは何か気付いているのだろうか。
レミリアは昨日のことを追求されているような不安な気持ちになってきた。
「心配しなくていいよ。僕は君たちが良い方向に進むために、知らなくてはならないことを教えたいだけで、君をどうこうしようと考えているわけじゃないんだ」
不安が顔に出ていたようだ。
「ますます不安になりますけど。私たちって、私とベオウルフさまの話ですよね?」
「そうだね。それを説明するには、最後に魔術について説明しないといけないんだ」
アレイスターは説明を再開する。
魔術とは、魔力と他の要素を利用して、超常現象を起こす技術。これも属性毎に様々な術が確認されている。
他の要素とは、魔法陣とか、魔術具とか、口伝されている儀式だとか、遺伝や突然発現する才能とか、生贄とか。
「ちょっと難しすぎませんか。これは本当にわけがわからないです」
「思考停止してはいけないよ」
そう言うと、アレイスターは胸元から紙とペンを取り出した。
サラサラと、紙に魔法陣を描き始める。
「遮音結界、つまり盗聴防止用の結界を作ってみせるね」
描き終わると、魔法陣に魔力を込めて発動させる。
魔法陣を書いた紙が光を放ち燃え尽きると、周りの空気が変わった。
「何が起きたんですか?」
「僕のオリジナルなんだけど、風の魔力と魔法陣を利用して、部屋の中と部屋の外との空気の流れを遮断して音が部屋の外に漏れないようにした。本来、空気が震えることで音が伝わるんだ。それを阻害する。単純な風のエネルギーを使うわけではないから魔術と定義されるかな」
「なんとなくわかりますけど、余計難しくしてませんか?」
「まあ、盗聴防止は今から必要だから使ったんだ」
アレイスターの話は終わらなそうだ。
レミリアはちょっと眠たくなってきた。
「わかりやすい魔術といえば、召喚術なら受け入れやすいんじゃないかな?」
「召喚術、ですか?」
「召喚術は魔力と呼び出す相手に相応しい何かを消費して、例えばドラゴンとか精霊とか、神々を喚びだした例もあるけど、力を貸してもらうんだ」
「はあ」
レミリアには難しかったようだ。
というより興味が無すぎた。
「うーん、まあ理解してもらえたということにして、次にこの闇の魔導書なんだけど」
アレイスターが魔導書を指差す。
「これを見せる以前に、君は字が読めるかい?」
この世界の平民、農奴の識字率は結構低めだ。
狩猟や農業をするだけなら字を読める必要がないのだ。
「どうでしょ。一応村では読み書きは教わりましたし、物覚えは良いと言われましたよ」
「え、魔族の村で読み書きを習っていたのかい?」
「はい、長老のおばあちゃんが熱心だったんです」
「それなら話が早いね。じゃあいくよ」
アレイスターが本のページをめくり始めた。
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