第5話 アレイスターの部屋

レミリアが追加でサラダとロールサンドと果実水をゆっくりと食べ終えた頃、メイドのノーラと青いストレートの髪の背の高いメイドがやってきた。


「ホノさん、主上のご飯を取りに来たよーって、レミリアちゃんご飯食べてたんだ。ホノさんのご飯美味しいでしょ?」

「うん、とっても美味しかった! もうお腹いっぱいだよー」


ホノがトレイにレミリアが食べた分の3倍くらいの量の朝食を乗せて持ってきた。


「ほら、ノーラ頼んだよ」

「ほーい。レミリアちゃんまたねー」


ノーラは風のように去っていった。

ホノがもう一つ朝食を持ってきた。


「リリはアレイスターさんの分だね?」

「うん、そう」


リリと呼ばれたメイドが渡されたトレイを持つ。

慌ててレミリアがリリに声をかける。


「あ、あの、アレイスターさんの部屋に行きたいのですが! アレイスターさんにメイドさんに伺えば良いと言われて」


リリが止まった。

迷っているように見える。


「連れて行っておあげよ」


ホノが援護してくれた。


「わかった。ついてきて」

「はい! ありがとうございます!」



リリは口数の少ない少女だった。

なのでノーラのように話しかけては来ないが、

レミリアを嫌っているわけではないようだった。


「私、レミリアです」

「リリ」

「リリさん、よろしくお願いします」

「レミリア、リリでいい」

「あ、はい!」


一階を少し歩いた先が、アレイスターの客間だった。


トン。 トン。


「アレイスター様、朝食をお持ちしました」

「はいはい、どうぞ」

「失礼いたします」


中に入ると、そこは本の海だった。

本の海が割れた隙間にある机でアレイスターは何か書いているようだった。

こちらを見ることもなく、机に向かったままだ。


「悪いね、ちょっと手が離せなくて、その辺に置いておいてくれるかい?」

「はい」


言うとリリはトレイをレミリアに持たせ、

入り口側の応接机の上の本をどけて、部屋の隅に運び始める。

再びトレイをレミリアから受け取り、

隙間を開けた机の上に置いた。


「後で下げにまいります」

「うん。いつもありがとうね」


毎日のやり取りなのだろう。

手慣れた様子だ。


「それでは失礼いたします」


レミリアは慌ててお礼を言う。


「あ、リリ、ありがとうございました」

「……うん、お安い御用」


リリはレミリアを一瞥して退出した。

そのやり取りで、アレイスターがやっとレミリアの存在に気付いたようだ。


「ん? レミリアさんも来ているのかい?」

「はい、突然すみません。お邪魔でしたか?」

「いや、大丈夫だよ。君と話すのは早い方がいい」


そう言うと、アレイスターは応接机の方まで歩いてくる。


「散らかっていてごめんね、立ち話というわけにもいかないが、これでは落ち着いて話もできないね」

「少し片付けましょうか?」

「うん、そうするとしよう」


それから、二人で椅子の上の本だけ片付けた。


「そこの3冊はあの本棚、あれとそれは僕の机の方に……リリにも居てもらったら良かったね」


椅子の上だけなので、すぐに終わった。

アレイスターは本棚から別の本を一冊持ってきた。

その本は食事のトレイをどけて机に置かれる。


(冷めちゃうけどちゃんと食べるかな? 美味しかったんだけど)


そして応接間の椅子に腰掛ける。


「片付け、手伝ってくれてありがとうね。そっちに座ってくれるかい?」


レミリアも向かいの椅子に座った。


「お部屋、いつもこんなに散らかってるんですか?」

「あはは。僕はベオウルフから調べ物を頼まれて、客員として呼ばれているんだけどね。早めに用事を終わらせないといけないから、片付けはつい後回しになっちゃって」

「調べ物、ですか?」

「うん。まあ余談だったね。それについては話すと長くなるから、ベオウルフから聞いて欲しい。今は本題に移らせてもらう」


アレイスターは姿勢を正した。


「改めて自己紹介するね。僕はアレイスター。今はこの城で客員魔導士という立場だ。よろしくお願いするよ」

「私はレミリアです。マイラの村からいろいろあって、ここに来ました。アレイスターさん、よろしくお願いします」

「いろいろ大変だったね。悲しいことに君のような境遇の魔族はたくさんいて、救われない場合がほとんどだ。大きなお世話だろうけど、せっかく拾った命、大切にしてね」


レミリアは苦笑いするしかない。


「それについてはちょっと複雑ですね……人族不信になりそうです」

「気持ちはよくわかるよ。ここの連中はいい人ばかりだから、仲良くしてあげてよ。まあそんな単純な話じゃないんだろうけど」


魔族の中には強力な恨みや欲望に身を委ね、力を付けて殺戮の限りを尽くす「魔人」や「魔王」となる者が現れるのだ。そうなると人族の手には負えず、ひとしきり暴れてから、神々の導きで魔界に住まうことになる。


「ああ、あとレミリアと呼ばせてもらっていいかな。僕は公式の場でないところでの敬称が苦手で」

「もちろん大丈夫です」

「ありがとうレミリア。では本題に入らせてもらうね」


アレイスターは、先程持ってきた一冊の本をレミリアの前に移動させた。

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