第3話 拐われた娘③
ノイマンがベオウルフを追求していたが、メイド長のカミラが割って入ってきた。
「お待ちください。いくらノイマン様でも主上の夜伽のことを根掘り葉掘り尋ねるねはいかがなものかと思います。確かに年端もいかぬ少女ですが、そういうご趣味の方もいらっしゃいます」
「「なっ! 」」
ノイマンとレミリアの声が重なった。
ノイマンは黙ってしまった。
ベオウルフは特に気にもしていないようだ。
ヒソヒソ……
扉の向こうでは皆が各々思い思いに話し始めた。
レミリアは顔を赤くして抗議した。
「私、変なことしてないもん!」
ノイマンは考えた。
主上は無事だったのだからもう充分だろう。
もう夜伽の最中の話ではあるし、侍女長の言う通り深く追求することでもない。
異分子さえ排除すれば。
「では、主上の相手はできないということで、その娘は奴隷商人に返してよろしいですね?」
レミリアはびくっとした。
ベオウルフがレミリアの頭に手を乗せた。
ごつごつした大きな手だ。
「それなんだが、この娘は奴隷商から買い取る」
「何をおっしゃるのです!」
「この娘は魔族だ。拐われて連れてこられたらしい。ここで返すのは不憫でならない」
「魔族なら尚更危険だと思いますが」
「ノイマン、今返したらどうなるかわかるだろう」
ノイマンも奴隷商人の魔族に対する扱いはよくわかっている。ここで返すのは苦しみ抜いて死ねと言っているようなものだ。
「もう決めたことだ。ノイマン、なんとか頼む」
ベオウルフが頭を下げた。
領主が臣下にそこまでするのだ。
「頭をお上げください! わかりましたから」
ノイマンはため息をついた。
「ある程度行動を制限させていただけるなら構いません」
ノイマンはベオウルフが言い出したら聞かない事はわかっている。
「おい、ニックはいるか?」
ベオウルフが声をかける。
「は、はい領主様、ここにおります」
後ろの方から、レミリアを買った件でノイマンに散々絞られた冴えない役人が現れる。
(ある意味、この人が命の恩人なんだよね。また機会があったらお礼言わなきゃ)
レミリアはそう思った。
「ニック、この娘の隷属契約書はあるか?」
「い、いえ、仮契約なので、3割しか代金を払っておりません。残りを払えば権利を移譲してもらえる仮契約書ならございます」
気に入らなければ3割の代金は失うが返品できるということだ。
奴隷商人に損害はないが、買い手側はハズレを引いた場合は泣き寝入りするしかない。
買い手が恨みに思って奴隷を傷つけないような仮契約書にはなっているが、
「今回は妙齢と偽って子供を送るという、割と詐欺的な手口といえますね」
ノイマンが冷静に言った。
ベオウルフが興味深そうに聞いてきた。
「レミリア、お前何歳なんだ?」
「ベオウルフさま、女の子に年齢をさらっと聞かないで欲しいんですけど。……24年生きてます」
平地住まいとはいえ、魔族だから人間の4倍は生きるのだ。成体にになるまでは2倍くらいかかる。
「わははは! 24とは妙齢だな。上手く騙されたなニック」
「申し訳ございません!」
役人はもう謝るしかない。
「ニック、明日残りを払って契約書を持ってこい。念のため護衛を2人付けてやる」
「護衛でございますか?」
「拐われた魔族を奴隷として推してくる商人だぞ? 必要だと思うが」
ニックは、はっと気づいたように返事をした。
「かしこまりました」
その後ろでノイマンがニックをじっと見ていた。
(そろそろ本当に眠いなあ)
レミリアは欠伸をしている。
それを見てベオウルフは散会を告げる。
「皆、騒がせて済まなかった。今日はもう下がってくれ。レミリアは、今日はこの部屋を好きに使うと良い」
それを聞いて、皆個々に退散していった。
ノーラというメイドがレミリアのところにやってきた。
「やっほーレミリアちゃん。大変だったね」
「ううん、なんか騒がせちゃってごめんね」
「でも良かったね、しばらくお城にいるなら、今度非番の時遊ぼうね!」
「うん! ノーラちゃん楽しみにしてる」
ノーラが去ろうとした。
「もうノーラ! 違うでしょう」
赤い髪をポニーテールにした、レミリアより少し年上に見えるメイドがノーラを捕まえる。
「レミリアさん、その格好で城内を彷徨かれるのは困ります。とりあえず寝巻きを渡すので、後で着替えてください」
綺麗に折り畳まれた寝巻きを渡される。
「私はアンナと言います。必要なものがあればまた言ってください」
「アンナさん、ありがとうございます」
「普段着については、明日ノーラに届けさせます」
「はい、わかりました」
用件が終わると、メイド長と一緒にアンナとノーラは帰っていった。
ノイマンも退出の挨拶を告げる。
「主上、それでは私も失礼いたします。今日はもう遅いので、また明日、ニックの契約書を待ってレミリアの扱いについて決めましょう」
「わかった。ノイマン、今日はすまなかった」
残されたのはレミリア、ベオウルフと、
扉の横に立ったままのアレイスターだった。
ノイマンの姿が消えると、アレイスターはレミリア達に近づいてきた。
「レミリアさん、ちょっと話があるんだけど、今日はもう遅いから明日僕の部屋に来てもらえないかな」
「えっ?」
さっきアレイスターと目があったが、
それ以外に特に接点があったわけではない。
「まてアレイスター、レミリアに何の用だ」
ベオウルフがレミリアに近づくアレイスターの前に立った。
「ベオウルフ、君は自覚がないみたいだね」
「ん? 何の話だ」
「まあいいじゃないか。せっかく魔族に会ったし聞きたいことがあるんだ。僕は魔導士をしていて、いろんなことに詳しいんだよ。レミリアさんも誰かに聞きたいことがあるんじゃないのかい?」
レミリアはなんとなく記憶にある黒い雲のことを思い出した。
「僕なら詳しく説明できるはずだから。なるべく早めに、一人でおいで」
「わかりました、アレイスターさん」
「部屋はメイドに聞いたらいいよ」
アレイスターとの面会も決まった。
全く関係ないが、レミリアはアレイスターが男性だと知って少し驚いている。
「おい、アレイスター、何を考えている」
ベオウルフは何か面白くなさそうだ。
アレイスターは気にすることなく言った。
「大丈夫だよベオウルフ。君の大切なものを傷つけたりしない。いつも僕は君に協力しているだろう」
そう言いながら、アレイスターも退出した。
部屋には二人だけになった。
アレイスターのことで、ベオウルフの機嫌が少し悪いようだ。
今日はこのまま一人になるのだ。このまま別れるのも気が引ける。
「あの、ベオウルフさま」
「どうした?」
「さっき、私を庇ってくれたとき、とても嬉しかったんです。お願いはしていたけど、やっぱり不安で怖かったから」
「そうか。お前の助けになれたなら良かった」
ベオウルフが扉に向かう。
「今日はもう寝るといい」
「はい、ベオウルフさま、おやすみなさい」
こうして、レミリアにとって大変な1日が終わった。
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