第4話 育ての親

 帰り道を歩く。

 もう空はオレンジに染まって、カラスが2匹並んで飛んでいく。

 空手教室から家までの道にはうみが住んでいた家がある。

 朝川児童養護施設だ。いつも子供が遊んでいて微笑ましい光景が見れる。

 でも、いつも俺はうみのことを思い出してしまう。別の道を行けばいいのは分かってる。でもそうやって避けていると、いつか忘れてしまうんじゃないかと不安になってしまう。


「海翔くん!」


 呼び止められた。

 振り返ると買い物袋を持った若い男の人がいた。たしか、この施設の職員だったっけ。うみの育ての親だ。名前は確か、メグルさん。


「久しぶりだねぇ元気してた?」


「はい…まあまあっすね」


「最近暑いもんねぇ」


「そっすね……」


 ヒグラシが鳴き始めていた。湿った空気が流れる。


「あ、そうだ!今夜うちで食べないかなぁ?」


「え、えっと……」


 ぐいぐい来るな。そういえばこの人、こんな感じの人だったな。初めて会った時も誘われて食べに行ったんだっけな。そのときはうみも一緒だったな。


「あ、そういえば明日、君のお父さんの命日だよねぇ」


 話の方向転換すごいな。


「そうっすね」


「君のお父さんには若い頃お世話になったんだぁ」


 俺の父親に世話になった人多いな……。


「若い頃って今も若いじゃないっすか」


「そう?僕、見た目より老けてるよ」


 そう言って、メグルさんは施設を見つめる。微笑んだ口元は経験豊富な大人のようだった。


「……何歳なんすか?」


「秘密ー」


 メグルさんはニッと笑う。教えてはくれなさそうだ。

 ……うみなら知っているだろうか。


「君といるとうみちゃんのこと、思い出しちゃうなぁ」


 俺は驚いて思い切りメグルさんの方を見てしまった。


「仲良しだったもんねぇ君ら」


 目は笑ってないけれど柔らかい表情だ。


「……メグルさんはどうやって乗り越えたんすか?」


「無理だよ、一生忘れられないさ、君も」


「……ですよね」


 空が珍しく青紫色になっていた。


「めぐっちー!ごはん!」


 施設の中から男の子が顔を出している。


「そろそろ帰らなきゃ、じゃあね海翔くん」


「うっす」


 メグルさんは行ってしまった。

 絶対夜ご飯のこと忘れてる。

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