第3話 先生

 俺は田中と別れて真っ直ぐ、体操教室に向った。俺は今はやっていない。

 砂利道を通り、扉を開け、簡単に挨拶する。

 畳のある和室。その真ん中に俺を待ちかまえているおっさんがいた。正先生だ。

 すでに座布団にあぐらをかいている。そしてその前にもう一つ座布団がある。俺はその上に正座する。


「遅かったな」


「すいません」


 今日、教室は休みでほかの生徒もいない。

 しかも正先生の後ろに槍が見える。布を被っているがあれは真剣だ。確実に銃刀法違反。


「突然呼び出してすまないな、お前に渡しておきたい物があって」


「な、何ですか」


 正先生は顎に生えたヒゲを触り話し始めた。

 とりあえず説教や試合ではないようだ。安心した。


「お前の父さんは明日、命日だろう、写真たての所に置いてくれ」


 先生はスノードームを俺に手渡した。てか夏にスノードームって売ってるんだ。余り物か?

 ……そういえば明日だったな。

 俺の父親は俺が物心つく前にこの世を去ったらしい。だから全くどんな人か知らないし、写真でしか見たことがない。


「若い頃はお前の父さんによく世話になったもんだ……」


 正先生は懐かしそうに言った。

 先生の若い頃は全く想像出来ない。だが、その顔はとても優しそうで、父親に会ったことはないが少し嬉しかった。


「今日はこれだけだ、気をつけて帰れよ」


 教室を出る。

 教室、なんて言っても俺はもう教えてもらってない。

代わりに試合をしている。

 うみが亡くなって、先生なりに元気付けようとしてくれたんだろう。最初は先生と遊び半分で始めた事だった。

 どちらかが場外、降参するまで終わらない、武器VS素手の試合。

 その技術を使う時が来るかもしれない。そのとき誰かを守れるようになれる気がした。

 そんなわけで部活に張り合いがない。

 これが田中に隠した秘密だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る