第39話 領主の感嘆
「まさかこうも簡単に事が運ぶとは……」
執務室に上がってきた報告書を読み終えたアシュリスは、喜びと畏れの入り交じった嘆息を漏らした。
先日エミリーから、大理石の町で誘拐犯を捕縛したとの連絡が入ったのだ。
引き取った犯人グループの主犯は吸血鬼。町人に成りすました部下が十数名。
吸血鬼は見る影もなくミイラのような有様だった。
現場にいた男達は全員去勢され怯え切っており、調書を取るのは難航したが、その結果は上々であった。
どうやら犯人グループは本土でも暗躍しているマフィアの一味で、攫った娘達の凌辱シーンを魔導カメラで撮影し、好事家達に売り捌いて資金源にしていたという事だった。
その顧客のリストも入手し、王国内の貴族の名があったために一斉に捜査の手が入る事になった。
もちろんある程度で尻尾を切られているのだろうが、マフィアへのダメージは相当なものになったはずだ。
何より、開拓島へもマフィアの手が伸びていると判明した点が大きい。これからの領政の大きな指針となる。
「マフィアのやり口にしては、少々ずさんな気もするが……」
あれだけ派手に誘拐事件を起こしておいて、注目されないとでも思ったのだろうか。
よほど吸血鬼の力に自信があったのか。
細かな疑問は残るが、ひとまずは頭の隅に追いやる事にする。
「流石は英雄殿、といったところだな」
自分で仕向けておいて言うのもどうかとは思うが、ここまであっさりと解決してくれるとは考えていなかったのだ。
先の指名手配犯の件も、結局はサンデーの手を借りたという話だった。
アシュリスの目論見通り、やはりトラブルを惹きつけてくれる人物のようだ。
大理石の町については冒険者に調査依頼を出していたが、少々遅かったらしい。後で詫びねばなるまい。
なんにせよ誘拐事件が解決したとなれば、町はまた元の活気を取り戻すだろう。
「東側の懸念は少し減ったか。これで亜人種に注力できそうだな」
開いていた地図にメモ書きを加えながら、一人ごちるアシュリス。
「それにしても……恐ろしい人だ」
吸血鬼があんな有様になってしまうなど前代未聞であった。その所業を考えるだけでも身震いしてしまう。男達も命はあるものの、生ける屍のように放心したままの者が多い。
確かに唯の一人も殺しはしていない。
しかし、各々に見合った相応の罰は下す。
絶対に彼女の怒りは買うまい。そう改めて心に誓うアシュリスだった。
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