第37話 大理石の館 3
エミリーは木で出来た粗末なベッドへと寝かされていた。
ベッドと身体との間に申し訳程度にシーツがかけられているが、あまり洗濯されている様子は無い。
部屋の作りもあまりは良くない。使用人部屋なのだろうか。
大理石が使われているのは床だけで、天井と壁は木材でできた粗末なものだ。そこら中から隙間風が入ってくる。
ストーブを置いていなければ、たちまちに凍えてしまうだろう。
現在の館の主が、男共を館内に入れたくないとして、屋上に作らせた掘っ建て小屋だった。
壁や床には飛び散った血を雑に拭ったような痕跡が残っている。臭いも酷い物だ。
部屋の端のテーブルには、様々な性的な道具や拷問器具が置かれていた。この部屋で何が行われているかが一目瞭然である。
エミリーが横たわるベッドの周りを、10人程の男達が囲んでいた。
彼女とサンデーを運んできた者達だった。
「いやあ、ツイてるよな今日は」
「まったくだ。こんな上玉が一度に二人も来るなんて初めてだぜ」
「あっちのとんでもねえ美人は、ボスが気に入っちまったからもう回ってこないだろうが、この娘でも十分だぜ」
これから始める事を見越して、全員裸になっている。
「むしろあっちにかかりきりになってるおかげで、無傷でこの娘と遊べるんだからな」
「ボスの後だと大抵壊れちまってるもんなあ」
下卑た笑いが沸き起こった。
「それにしても、ガキの癖に良い身体してやがる」
横になっていても崩れず、薄手のパジャマを押し上げ主張している双丘を見詰める男。
変わった意匠のペンダントが谷間に乗せられ、ゆっくりとした寝息に合わせて上下するその胸元から目を離せずにいる。
「おいおい、見てみろよこれ! こいつ25歳だってよ?」
一緒に持ってきたエミリーの鞄を漁っていた男が叫んだ。
「身分証か? マジだな、合法ロリってやつか!」
「まあ違法だろうが俺達には関係ねぇがな!」
「そりゃそうだ!」
ぎゃははと、再び粗野な笑い声が部屋に巻き起こる。
「しかし王国新報の記者か。大丈夫か?」
「なぁに、証拠なんざ残らねぇよ。上がもみ消してくれるだろうしな」
「ま、そうだな。んじゃまあ、お楽しみと行くか」
涎を垂らさんばかりに緩み切った表情で、髭面の男が服を脱がそうと手を伸ばす。誰も順番に異を唱えないのは、彼が立場的に上なのだろう。
「ちゃんと引ん剝く所も撮っておけよ」
「任せとけって」
声をかけられた男が、魔導カメラを構えていた。
それを確認すると、髭面の男が改めて服に手をかけようとする。
その時、エミリーの胸元のペンダントがきらりと光ったように見えた。
「なんだ?」
「どうした?」
動きを止めた男に、横で見ていた他の男が声をかける。
「いや、今何か……」
男が言葉を続けようとした瞬間だった。
ふわりと、不意にペンダントに宙に浮き、「シュボッ」とライターのような音を立て燃え上がったように見えた。
その後、ガサガサと、何かが擦れるような音が何処からか聞こえてくる。
「何の音だ……?」
訝し気に男達はあたりを見回す。
天井の魔術照明が、ちかちかと点滅を始めた。
男達が慌て始めるが、ガサガサという音も止まず、それどころか徐々に大きくなっていく。
「うわあ!!」
始めに異変に気が付いた男が大声を上げる。
「何だ、どうした!」
「む、虫だ!」
一点を指さして叫ぶ男。
「虫くらいで何だってんだよ!」
叫び返しながら髭面の男がそちらを確認し──凍り付いた。
壁の隙間から、巨大なムカデのようなものが入り込もうとしている所だった。
それだけではない。他の隙間という隙間から、ムカデや毛虫、サソリといった毒蟲の類が群れを成して流れ込んでくる。
どれもが人の手の平よりも大きい。だというのに、まるで液体のようにぬるりと隙間を抜けて来るのだ。
天井からもボトボトと、間断なく虫達が落ちて来た。
「うわああ!?」
「ひいぃぃぃ!」
大量の蟲の洪水が、男達に群がって行く。
男達は必死に追い払おうとするが、全く効果は無い。瞬く間に集られていく。
全裸であったのも致命的であった。足元から次々と噛み付かれ、あるいは刺され、動きを封じられてしまう。
立っていられなくなった者はあっと言う間に蟲の群れに飲み込まれていった。
始めはぶちぶちと。やがてごりごりと、骨まで咀嚼するような音が響いてくる。
「あうあああああああああ!!」
「うごあああえええ!!」
最早言葉をなさない悲鳴を上げるしかない男達。
髭面の男は最後まで抵抗していたが、ついに膝から下を噛み千切られ床に倒れ伏す。
すぐに上半身まで蟲が這い上がってきた。
「くそっ! くそがっ!! 来るんじゃねぇ!!」
必死に腕を振り回すが全身に激痛が襲い来る。生きながらにして喰われるという恐怖が男の精神を蝕んで行く。
ふと、偶然であるが男は視線を上に向けた。
そこには、先程炎が宿ったように見えたペンダントが。未だに娘の胸元の空間へ浮かんでいる。
炎は見間違えではなく、今も尚燃え盛っていた。
いや──大きくなっている。
男が痛みも忘れて見詰めている間にも炎は膨れ上がり、人一人分程の大きさになったと思えた、次の瞬間。
炎がぼうと燃え広がり、三つに分かれた。
そして三角形を描くようにふわりと宙に舞うと、その中心から真っ黒なドレスを着た美女が、突如としてするりと姿を現したではないか。
見惚れている間にも黒い美女は、音もなくベッドの横へと優雅に舞い降りた。
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