第21話 海と水着と触手

 ナインの合図を受け、アルトが狙いを付けて両手に持つ銃を放った。


 バチュバチュッ!


 肉の弾ける音と共に、焦げ臭い煙が辺りに漂う。

 それを煙幕にしながら、ナインが疾風のように一直線に駆けた。


 キュオオオオオオオオオオオ!!!


 攻撃された事を認識した海魔が、無数の触腕を展開し始める。

 一斉に襲い来る触腕をナインは速度を落とさずに迎え撃つ。

 

 ぐちゃり、と肉が叩き潰れる音が響く。

 

 ナインの一閃で前方を塞いだ触腕が薙ぎ払われていた。

 敵対者を排除すべく伸びていく触腕が、ナインに触れる前に次々と千切り飛ばされていく。鈍器であるというのに、恐るべき「切れ味」であった。

 やはり船の上では揺れに足を取られ、十全に動けなかったのだろう。今は別人のような立ち回りだ。


「なかなか見事じゃないか」


 エミリーに果物を食べさせてもらいながら微笑むサンデー。


「冒険者ギルドでもかなり上位の腕だと聞いていますよ~」


 タブレットの情報を確認しながらエミリーは続ける。


「今振るっている鈍器ですが、ご自分で倒した竜の牙を引き抜いて、あのように加工されたそうです~」

「ほほう、竜殺しか。立派な英雄じゃないか」


 感心したように目を細めるサンデー。


「アルトさんはエルフとしてはまだ若いながら、魔銃の名手、そして中級魔術も使いこなす凄腕のレンジャーだそうです~」

「そう言えば見ない武器だね。ここ最近の物かね?」

「そうですね~。30年程前に宮廷魔術師様が考案されたものが、近年になって流通され始めたようです~」


 エミリーが魔銃についての説明を読み上げる。


 魔銃とは、射撃系の魔術回路を銃身に仕込む事で、術式を編む手順を省いて発射が可能となる魔導兵器である。

 この世界では魔術が発達しているせいか火薬の恩恵が少なく、銃火器の研究は軽視されている。

 それでも弓矢に代わる飛び道具をと考案されたのがこの魔銃である。

 マナバッテリーと呼ばれる弾倉に予め魔力を込めておくことで、即座に魔術を発動する事ができる。込めた魔力の量に応じて連射が効くのが強みだ。

 さらに言えば、大量の弾薬を持ち歩かなくて済むという利点が挙げられる。身軽さが求められるレンジャーにとってはこれが一番望ましい。


 デメリットとしては、魔術としては命中精度が悪い事。

 例えば通常の火球を飛ばす魔術を使う場合、ある程度熟練した者ならば途中で軌道を変える事が出来る。

 しかし魔銃は術式の発動を簡素化する点に特化している為、撃った後の弾に干渉ができない。照準は個人の技量で補うしかなく、その点は通常の飛び道具と同じなのだ。

 その為未だにメインの武器として使用する者は少なく、玄人向けと言われる。


「つまり短い訓練期間であの腕前という事か。器用なものだ」


 サンデーの目が愉快そうに二人の冒険者の姿を追う。


 ナインの背後に回ろうとする触腕の悉くを正確に撃ち落としていくアルト。まさに閃光の二つ名が示すような早撃ちである。

 二人は優勢に戦いを進めていくが、不利を悟った海魔は不意に動きを変え、二人を押しのけて通路へと逃げ込もうとする。


「むっ、逃げる気かよ!」


 脚を殴り払うが、多数有るためにどこが支点かわからず足止めが間に合わない。


「あっちにはサンデーさんが!」


 魔銃をリロードしながら壁伝いに走るアルト。

 しかし間に合わずに広場の入り口にいたサンデーを海魔が視界に入れる。


 キュオオオオオオオオオオ!


 仇敵を見た怒りからか雄叫びを上げ、触腕を繰り出す海魔。

 完全に寛いで油断していたサンデーは瞬時に絡め取られてしまった。


「姐さん!」


 ナインの叫びが洞窟内に鳴り響いた。

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