第20話 海と水着と洞窟探検
海岸沿いにある洞窟の前で、ナインが武装状態で待機していた。
「ツいてるぜ、一番乗りだ」
言いながら顎で洞窟を指して見せる。
「間違いない?」
アルトも着替えを済ませて戦闘態勢を整えている。
「ああ、ここの奥に隠れてやがったんだが、足が何本か千切れてる。姐さんがやった奴で間違いねぇ。あそこで回復をしてるんだろう」
流石に笑い事ではないと顔を引き締めてナインは続ける。
「今仕留めておかねぇと、また船に被害が出かねねぇ」
「よし、行くわよ。陸の上なら負けない……!」
「しかし姐さん達も行くのかい? その恰好のままで」
一緒に付いてきたサンデーとエミリーは水着のままだった。本来ならば真冬の海岸洞窟など氷点下の環境である。
エミリーが燦々日光君を担いでいる為、周囲は暖かい。先程より気温を調節したのだろう。快適そのものだ。
「海に繋がった洞窟というのも興味を惹かれてね。邪魔はしないさ」
「お気にせずに~」
「あ、エミリーさん。分かってると思うけど、さっきの事は絶対記事にしないでよね! 絶対だからね!」
にこやかに笑うエミリーにアルトが念入りに言い含めている。
「それは振りですか~」
「振りじゃないっ!!」
「やれやれ~、残念です~。では代わりに、ここからの活躍に期待させてもらいますね~」
肩を竦めるとエミリーは記事の練り直しを始めた。
「行くわよ! 良い所見せないと有る事無い事書かれそうだわ……!」
「何があったか知らんが……じゃあ行くぜ」
4人は揃って洞窟の奥へと入って行く。
巨大な海魔が通り抜けただけあって、洞窟の中はかなりの広さだった。通路でさえ街の大通り程度の幅はある。
潮が引いたばかりで濡れては居るが、足場は思ったほど悪くは無い。波に削られて滑らかになっているのだ。
高い天井はあちこちが崩れて日が差しており、中は意外と明るかった。
「ところで他の者達と集合しなくても良いのかね?」
複数の冒険者チームが手分けして探索を行っており、見つけ次第連絡した上で討伐するという話だったはずだ。
「正直言って他の連中じゃ邪魔なだけだと思ってな」
「ほう、大層な自信だ」
「船じゃ無様なとこ見せたが、まあ気楽に見物しててくれ」
「また美人の前で調子に乗る。油断するんじゃないわよ。確かに動きは大したことなかったけど、あの耐久力は厄介だった」
魔銃に弾倉を込めながらアルトが言う。
「まあな。久々のデカブツだ、島での初依頼だし派手にやるとするぜ」
ナインが背中の棍棒を担ぎ直し、にやりと笑う。
そうこうするうちに海魔がいるという洞窟の奥へと辿り着く。
行き止まりとなっており、通路より更に広々とした空間である。
丁度潮が引き、申し訳程度に残った潮溜まりに、海魔が身体をねじ込むようにして鎮座していた。
頭と思しき部位の前には、サンデーが吹き飛ばした傷を庇うように触腕を折り重ねていた。多数ある目玉が周囲をギョロギョロと見回している。
「あの時は半分以上吹っ飛んだように見えたが、大分治ってやがるな」
ナインが岩陰からこっそりと様子を伺う。
「なんて再生力……さっさと片を付けないとね」
アルトは魔銃を構えて距離を測り始める。船では引火を恐れて使わなかった火炎弾が込められていた。
「今度は丸焼きにしてやるわ」
「お手並み拝見と行こうか」
サンデーは燦々日光君を岩肌に差すと、同時に現れた長椅子で寛ぎ始めた。エミリーが横で従者よろしく扇を扇いでいる。
「緊張感の欠片もねぇな……まあ良い」
ナインがアルトへと目で作戦開始の合図を送った。
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