第74話 フロント防衛戦 2
「あーあー、こちら閃光のアルト。魔銃隊の隊長さん?」
ジャンから受け取った通信機を手に、球体への射程範囲へと飛んで行くアルト。その通信に、すぐに返答が入る。
『アルト殿!? どうされたのですか!』
「湖ぶりねー。説明は省くけど、今からまたあたしの指揮下に入ってね。あのでかい的、集中して撃ち落とすわよ」
『……了解! また共に戦える事を光栄に思います!』
「ええ。5秒後に、手持ちで一番火力ある弾をありったけ撃ち込みなさい! 以上!」
『はっ!』
通信を切ると、アルトは高度を上げて、赤黒い球体を眼下に臨む位置へ静止した。
「さあ、お姉様にも見えるようなでっかい花火を上げてやるわ」
腰から引き抜いた魔銃をくるくると回しながら、胸の前へ交差させるアルト。
そこへ。球体へ向けて魔銃隊からの一斉射撃が突き刺さるのが確認できた。
どういう構造になっているのか、表面では爆発は起こっているものの、貫通はせず衝撃そのものが球体の中へと吸い込まれているように見えた。
「実体じゃない……? 空間の歪み? 穴?」
様々な仮説が頭に飛来するが、どれも裏付ける論拠は無い。
爆発が効果が無いと見て、アルトは魔銃の弾倉を切り替えた。光の属性を込めた熱線弾だ。
「悪の幹部の使う属性って言えば闇ってのがお決まりよね!」
アルトが交差して構えた双銃から、眩い二本の光条が球体に向かって放たれた。
球体へは直接当てず、その左右へと光の筋が寄り添うように走る。そしてアルトはその交差した両手を左右へと大きく開いた。
二本の光の線は、まるでハサミのように、赤黒い球体を挟み込み、その輪郭へと食い込んでいく。じゅわりと鉄臭い煙が上がり始める。
発射した光線を途切れさせる事なく照射するような使い方は、魔力容量の多いアルトならではの応用技だ。魔銃隊から感嘆の声が上がっている。
「こっんの……! 硬いわね! さっさとブチ切れろ!」
アルトの渾身の力を込めた斬撃が、宙に浮かぶ球体を真っ二つに切り裂いていった。
「「おおおおおお!!」」
兵士達が歓声を上げる。
球体は二つに分かたれ、下半分は河の中程へと落ちていった。
しかし上半分は未だ宙に浮いたままだ。
「ちっ! じゃあ4分の1にしてやるわよ!」
もう一度銃を構えようとするアルトだが、その身を瞬時に回避へと転身させた。
球体から一本の血流が、アルトの顔の脇を掠めていった。
まるでこちらの光の銃弾に対抗するような、黒い弾丸を撃ってきたようだった。
「まさか意思が……!?」
続け様に飛来する弾丸を避けながら、アルトは上空へと距離を取り、一度観察に戻る。
射程距離は短いようで、一定以上離れると追撃は止んだ。
球体の上半分はその輪郭を崩し、再び丸い円を取り戻した。体積は少なくなってはいるが。
そしてその真円の中心に、ぎょろりと一つの大きな紅い瞳が現れた。
次いで、突然膨張を始め、ごきごきと輪郭を変えながらその質量を増やしていく。
「ちっ! 何なのよこいつ! 魔銃隊! 援護!」
再び一斉放火が始まり、アルトも射撃を再開するが、まるで手応えが感じられずに変形が進んでいく。
見る間に、翼の生えた巨大な竜のような影が、河面の上空へと姿を現したのだった。
オギャアアアアアアアアアアア!!
紅い一つ目はそのままに、口内までも真っ黒なその口を開いて凄まじい咆哮を上げる。いや、産声なのだろうか。
闇より生れ落ちた影の竜は、その場でゆっくりと羽ばたいている。
「──アルト!」
一瞬我を忘れかけたアルトを、相棒の声が呼び戻した。
「デカブツは俺に任せな!」
眼下でにやりと笑うナインに、アルトは落ち着きを取り戻した。
「そうだったわね。デカブツはあんたの専門だった!」
影の竜へ向けて威嚇射撃をしつつ降下し、ナインの元へと降り立つアルト。
「ほら、バトンタッチ」
「おうよぉ!」
バシン、と互いの手を打ち合わせると、同時にアルトはナインの体へ飛行の魔術をかけた。
「外しても骨は拾わないわよ」
「へっ! 姐さんなら拾ってくれるさ!」
言うが早いか、ナインの体が砲台から射出されたかのように地から上空へと打ち上げられた。
飛行の術と言うよりは、一方通行の大跳躍の術だ。
未だに動きの無い影の竜へ向けて、一直線に飛んでいくナイン。空中で大きく棍棒を振りかぶり、接触の瞬間に備える。
「棍棒こそ最強の武器だってのを、よく見ておきやがれぇぇっ!!」
エルダードラゴンの強力な魔力が宿った牙を研磨して作った特製の棍棒。その先端が、獲物に向けて振り抜かれた。
ゴシャリ!!
狙いは外れず、体を一回転させながら放たれたナインの一撃が、赤い目玉ごと影の翼竜の頭蓋を派手に破裂させる。
オギャアアアアアアア……!!
残った口だけが、大きく尾を引いて咆哮を響かせていった。
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