第2話 裕太

その晩、僕は眠りにつくと、裕太にいきなり話しかけられた。


「やっと思い出してくれた?それともこれでもまだ?」

裕太はにやにやしながら僕の顔を覗き込んできた。


「そうか。写真の友達って裕太のことだったんだ、やっぱり。」


「うん。」

裕太は、話を続けた。


「家の裏側に防空壕の跡地があったでしょ。『立ち入り禁止』って看板出てたとこ。そこに入ろうって話してさ、ロープをくぐって、僕は深めの穴に落ちちゃったんだ。」


僕は、夢の中で記憶をたどってみたけど、何も思い出せなかった。


「で、圭吾はすぐにいなくなっちゃったんだ。きっと大人たちに、『入るな』と言われていたところに来たことを隠したかったんだろうね。」

僕はなんだか嫌な予感がした。


「しばらく経ってから、僕がいなくなったって大人たちが探してくれたみたいだけど、そのころには、もうそこにはいなかったんだ。」


「??」


「頭打っちゃって、記憶も飛ばしちゃったんだ。穴から出て歩き始めたとき、どこがうちなのか、自分が誰かもわからなくなっちゃった。見覚えのある駅を見つけて電車に乗ろうとしたんだ。」

僕はそれを聞いて少し安心した。裕太が穴に落ちて死んじゃって、幽霊になって毎晩僕の夢に出てきたというオチが来るのかと心配していた。


裕太は話を続けた。

「なぜか、夏休みにいつもおばあちゃんちに行く記憶だけはあったみたい。でもおばあちゃんちへの行き方もちゃんと覚えてたわけじゃなくて。」


「そっか。なんだかごめん。」

こんな軽く謝る話でもないと思ったけど、裕太がうれしそうな顔をしていたんで、つい口から出てしまった。


「で、裕太は今どこにいるの?」


「うん。元気に暮らしてるってお母さんに言ってもらえないかな。あとは圭吾がしっかり思い出してくれた時にね。今日はここまでかな。」

僕は裕太のお母さんがどこにいるかも知らず、元気に暮らしてるって伝えようがなかった。


裕太の言葉を聞いたところで、目が覚めてしまった。


裕太がいなくなった日、僕は裕太が死んでしまったと思って、誰にも言えずに「なかったこと」にしてしまったのだろうか。で、いつの間にか裕太のことを忘れてしまったのだろうか。ベッドの横に腰かけて、僕は考えを巡らしていた。芽衣は隣で優しい寝息をたてていた。


不思議だったのは、裕太が生きているのになんで夢に出てくるのか、そして僕の生活を知っているのかということ。


僕は朝食を食べながら母親に昨日の夢の話をした。


今までずっと見続けていた夢に出てきていていたのが裕太だったこと。そして裕太は記憶をなくしてしまったが、まだ生きていると言っていたこと。僕が裕太を見捨てて帰ってしまったことは言わなかった。母が信じてくれるかどうは自信が持てなかったけど、僕は一生懸命説明した。


母は僕の話を聞いて嗚咽をもらしながら、裕太がまだ生きていると知ってうれしかったのだと言った。芽衣はそれをみて驚きながらも、じっと話を聞いていた。


それから聞く話は想像していたものとは全く違っていた。

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