夢の続き

usagi

第1話 僕の夢

「夢」は僕にはずっと特別なものだった。


将来なにかになりたいという夢ではなく、本物の僕の夢の話。

それは単発ではなく連続した内容になっていて、10年前からずっと一つの世界を作っている。登場人物は僕と夢の友達、裕太だけで。


つらいことがあった時、卒業後の進路を決める時、彼女と別れるとき、夢の中で僕は必ず裕太に相談し、楽しい出来事も報告していた。僕は裕太との二人の時間が大好きだった。



「明日芽衣にプロポーズしようと思ってんだけどさ。」


「もう決めてんだろ、僕がどうこう言う話じゃない。」

一般的な人生相談とは違って、裕太はいつも余計なことを言わなかった。


「お前は彼女の前ではカッコつけてるけど、実際あんまり頼りにならないじゃん。大概適当だし、お金の管理もできないし、自分の部屋の整理なんて全くしないし。結婚相手としては、マイナスポイントが多すぎるよね。」

「最初はうまくいってても、段々と『かわいいポイント』だったはずのことが『むかつきポイント』に替わってきたりするからさ。」


裕太は僕のことを熟知した上で、的確なアドバイスをくれる。夢の中とはいえ、僕にとっては大切な友達だった。


裕太との世界は、夢とわかっていたからこそ、恥ずかしがらずなんでも相談できたし、普段心の奥に隠してることも自然と言葉にすることができた。裕太が無駄なことは省き、必要なことだけを客観的に言ってくれるのにも救われてきた。僕の心の平穏は、裕太という存在によって保たれてきたと思っている。


そしていつも、僕は朝起きてからもしっかりと覚えていた。


裕太との話に納得した僕は、プロポーズを待つことにした。芽衣に自分のダメなところをしっかり見てもらおうと思った。


半年過ぎたころ、僕はレストランでデザートを食べ終えたタイミングを見計らって芽衣にプロポーズした。「遅い!」と文句を言われながらも、彼女は少し涙を貯めながら受け入れてくれた。彼女のうれしそうな顔を見て僕も幸せな気分になった。


僕と芽衣は1LDKのマンションを借りて住み始め、彼女の両親へ挨拶をしに行き、今度は彼女を自分の両親に紹介するために、駅前でレンタカーを借りて、甲府にある僕の実家に向かった。


実家は林業を営んでいて、町の中心からは少し離れていた。山の麓に赤い屋根の家が一軒だけ、空から見れば「ぽつんと一軒家」的な感じだった。


到着したころには太陽は沈みかけていて、盆地に向かって巨人の長い脚のような影が長く伸びていた。


実家ではすき焼きが用意されていた。すき焼きが出るのは子供のころから特別な日に限られていたが、その日は肉がたっぷり入っていて、これまで見た中でも最上級のもてなしだった。父は小さいころに事故でなくなり、母は10年前に父の同僚で林業を営む腕の太い色黒の男性と再婚していた。僕ら4人は、まるでずっとその組み合わせで暮らしていたかのように楽しく夕食を囲んだ。彼女はきっと緊張していたはずだったのに、そんな雰囲気は全く見せず、母のくだらない冗談に笑い転げていた。それを見て、僕はすっかり安心した。


夕食後、彼女からせがまれて昔のアルバムを探した。狭い廊下をさらに狭くしている本棚の一番下に、小・中・高のアルバムに並び、一番左に黄色のアルバムを見つけた。分厚い表紙には、生まれたばかりの僕の写真が飾られ、小学生くらいまでの写真が挟まっていた。初めてみるものだった。


くっつきすぎだろ、と文句を言いながら、僕らは二人でアルバムをめくった。写真は自分が覚えていないものばかりで、懐かしいというよりも新鮮に思えた。写真の中に、小学校に入るまでによく一緒に写ってる男の子がいることに気付いた。


「あれ、圭吾って兄弟いたんだっけ?」

彼女もいつも一緒に写っていた男の子に気付いたようだった。


「いや、誰だろうね、この子。」


僕は母親にアルバムを持って行った。

「ねえ、この子って誰?」


「え、あんなに仲よかったのに覚えてないの?」

母は驚いた顔で僕に聞いてきた。


その子は僕が幼稚園の年長の時に、いなくなってしまったのだという。僕はその子ととても仲がよく、いつも兄弟みたいに一緒にいたという話だった。全く覚えていなかった。言われてみれば、小さいころ大事な友達がいたような気がしてきたが…。


僕は幼稚園時代の話だから無理もないと思っていた。

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