第14話

(探知。……そこか)



度々探知魔術で場所を推定し、とある部屋に飛び込む

そこにいたのはアイリスともう2人、白鷺と…



「…俺、か…?」


「冬風…!」


「夜斗!」



何も言わない夜斗に似た誰かは、色違いの夜刀神を手に虚ろな目で夜斗を見た



「凪!?」


「……。あま、てらす…」



その男が振るった剣が、圧力だけで夜斗を壁に叩きつける

夜刀神で受け止めきれなかったのだ



「凪!何をしてるんだ!」


「夜斗!このこ、洗脳されてるっぽいの!誰かわかんないけど…」


「だからか…。だから…!」



夜斗はその意思で、むりやり自分を暴走させることができる

しかしあるとき、できなくなってしまった

その原因が、凪と呼ばれたその男だ



「白鷺貴様…何をしたかわかっているのか!?俺の…人の精神を奪うなんて!」


「当然だろう?暴走されたら勝てないんだから」



白鷺の周りに現れた蠅が夜斗を襲う

元々虫嫌いな夜斗にとっては2つの意味で地獄だ



「凪!起きろ!」


「……」



凪。それは夜斗の人格の名前だ

人格は本来肉体を持たない。だからこそ、夜斗の体を動かしていた

そうして夜斗を守ってきていたのだ

しかし今、人格である凪は肉体を持って夜斗を襲っている



「異能力か…!」


「精神感応、といってね。人格を具現化して使役する能力だ。それを応用して、君の最強を奪わせてもらった」


「…その程度で、俺を倒せると思うなよ」



夜斗は夜刀神にクレジットカードサイズの何かを挿した



【Authorized.READY】


「ハウリング・ロア」



大音量の重低音と超高音が同時に鳴り響く

それが蠅を撃ち落とし、白鷺の左耳の鼓膜を破壊・三半規管にダメージを与えた



「…!夜斗、何故俺はリアルにいるんだ…?」


「凪、起きたか。皮肉なことに、敵に体を与えられたらしい」


「…ほう。なかなかの技量、敵ながらあっぱれと言ったところだ」


「なんで…なんで支配が解けたんだよ!」


「…俺は、支配されない。今も昔も、異能が効かない。だから、天照大剣を使える。これは、あらゆる異能を拒むからな」



凪は白鷺に大剣を突きつける

横に並んだ夜斗も同じく、白鷺に夜刀神を突きつけた



「「チェックメイトだ」」


「もう、少し…もう少しだったのに…!」



白鷺の悔し泣きに、夜斗は目を離してアイリスに駆け寄った

ハウリング・ロアは、アイリスの周りに真空を作り影響を消したものの、何か負傷がないかを確認するために



「アイリス」


「おっそいよ夜斗。全くもう…、襲われかけてたんだからね」


「だろうな。あいつが考えそうなことだ」


「あの人は…例の…?」


「俺の人格。俺が記憶を取り戻したときに、異能を得たらしい。今まで使う機会なかったけどな」



夜斗が凪に目を向けたとき、凪は―――白鷺を刺していた



「凪!?」


「…俺を生み出したこと、地獄で悔いろ」



凪は大剣を白鷺から抜き、振り払った

まとわりついた血が払われ、真っ白な刀身が日光を反射している



「凪…お前…」


「夜斗。俺を殺せ」


「…は?」


「この体は腐ったワームの力で生まれたものだ。リアルに生きるのも悪くはないが、このまま生きていくのは心が保たない。だから、殺せ」



夜斗は躊躇った

この体で人を殺したことはない

それを差し引いても、凪は自分でもある。ためらうのが当然だ



「早くしろ。またどこかで、会おう」


「…わかった」


「待ってよ!死ぬことないじゃんか!」


「本人の望みだ。それに、異能を消す天照大剣の影響を受けない夜刀神でなければ…」


「…アイリス・アクシーナ・アンデスティア。夜斗を頼むぞ。美緒に伝えてやりたいところだが、最もお前が監視に適している」



夜斗は剣を構えた

凪は笑った。寂しそうに、それでいて晴れやかに



「夜刀神。最初の…最初で最後の、対人だ」


『はい…。回路、起動』



悲しげに夜刀神が応える

夜斗は凪の近くに移動した。思い出したかのように、拳を突き出す



「…さようなら、だ。夜斗」



凪はその拳に自分のそれを突きつけた

そして少し離れ、両手を広げた

夜斗を受け入れるかのように



「…さようならは嫌いだ。またな、凪」


「…そうだった。またな、夜斗」



鮮血が夜斗のコートを赤く染めた

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