第12話

自宅にて、霊斗はパソコンに向かっていた

ビデオ通話の相手は、アイリスだ



「アイリスさん、調べは付きましたかね?」


『ぜーんぜん。白鷺のまわり、ガッチガチすぎるよ。まぁ逆に怪しいからわかりやすいけどさ』



霊斗がアイリスに依頼したのは、白鷺家のパソコンにハッキングを仕掛けて情報を盗むこと

その情報というのは、白鷺が手篭めにしてきた女性の行方だ

霊斗は公安の人間として、とある事件の捜査にかかわっている

それが―――



『高島中学校連続誘拐事件、だっけ?』


「えぇ。正確には、第78期高島中学校卒業生連続失踪事件です」


『見つかる見込みないと思うよ?なにせ日本中の監視カメラに引っかからないんだから。現代において死角はないし』


「念の為、ですよ。貴女ならよくわかってると思いますがね、紅のホワイトハッカーさん?」



アイリスの業界での異名。それが紅のホワイトハッカー

血を嫌うため、軍には手を貸さず、公安にも手を貸さないアイリスは、その仕事への姿勢を揶揄して紅と呼ばれている

霊斗への協力は、あくまで『夜斗の親友のお願い』でしかないのだ



『そーだけどさー。多分監禁されてるか、売られてるか、埋められてるかなんだよね』


「あり得るのは監禁されてることかなって気がしますけどね。ワームの苗床に使ってると考えれば…」


『まぁね。それにしても、よく私に情報持ってきたよね。さすがの私も耳を疑ったよ』


「だから映像見せたしデータも貸したじゃないっすか。足りませんかね?」


『じゅーぶんだよ。解析したら編集の形跡なんてなかったし』



アイリスはビデオ越しに笑った

それは、未知との遭遇を前に燃える、ハッカーとしての笑みだ



「では引き続きお願いします」


『ほいほーい。でこっからプライベートなんだけどさ』


「なんだよ」


『夜斗の前世の彼女、きたんだよね?』


「情報が早いっすね」


『写真くれない?監視カメラで探すから』


「えー…夜斗に殺されるの俺なんすケド…」


『殺したって死なないでしょ。さもなくばこの写真、天音ちゃんに渡すからね』



アイリスが霊斗のパソコンに表示させたのは合成写真だ

霊斗がアイリスを襲っているように見えるもの。加工の跡は一切残っておらず、解析でもしない限りわからないことだろう



「いつの間に…」


『まあ見る人が見ればわかっちゃうけどね。これ、君が天音ちゃん起こしてるときの画像切り抜いてるし』


「盗撮は犯罪ですよ」


『浮気調査だからね』



あくまで認めないアイリスの態度に折れて、霊斗は画像を送信した

その瞬間に画面に映るアイリスの顔が曇る



『桜坂美緒…!』


「え?なんかあるんすか?」


『…この子はよくいじめられてたの。私はこの子を助けられなかったから、ちょっと後ろめたい気持ちもあるんだよね…』


「いじめられてた…?あの人が…?いや、夜斗もいじめられてたの考えたら見かけによらないのか…」


『その情報、5万で買うよ』


「…金はいいんだ。助けてやれるなら」



霊斗は内容を話し始めた

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