第10話
日曜日。夜斗は呼び出されて卯月の家の前にいた
(家でけぇ…。社長ってのはマジだったんだな)
「あ、おはようございます夜斗様」
「え?来夏?なんでここに?」
「専属秘書として雇われました。前の仕事は辞めたので、今は引き継ぎで週1出勤になり、こちらの引き継ぎに来てます。小説はちゃんと書いてますよ」
「またお前を下に置くんだなあいつ」
「みたいです」
笑いながら言う 来夏
前世のときは薄ら笑いしかしなかった彼女だが、今はかなり感情を表に出せるようになっている
これもこの新しい人生で得たものなのだろう
「どうぞ、夜斗様。霧桜様がお待ちです」
来夏に案内されて通されたのは、誰もいない部屋だ
巨大な天蓋つきのダブルベッドと、小型のドレッサー、壁一面をドアにしたクローゼットのほかは何もない
机は別の部屋にあるのだろう
「卯月、来たぞ」
「いらっしゃいついでに私を探してみてよ!」
「ついでがめんどくさいな…。探知」
掌を上に向け、小型の魔法陣を展開する
そして夜斗は、それから受け取った情報をもとに探し出した
「やはりな」
「魔術はずるいよ!?しかもなんのためらいもなくクローゼット開けたね!?」
「俺らの仲だろ。まぁこの体では初対面に近いが」
「まーね。今日呼んだのは、ある程度お互いのこと知っとかないと結婚できないなぁと思って」
「すげぇ、エベレストより高い発想だ」
「世界規模じゃんすごいね私」
卯月は財布から免許証を出した
名前欄には、「桜坂
「今世の名前か」
「そそ。美緒って呼んでいいよ」
「美緒、か。いい響きだな。俺は冬風夜斗だ」
「夜斗…いいね!」
抱きついてくる卯月もとい美緒を撫でて、夜斗は鳴り響く電話に気づいた
鳴っているのは夜斗と美緒、それぞれの携帯電話だ
「あー…ごめん、電話出てくるね」
「気にするな、俺も電話だ」
夜斗の電話が表示しているのは、親友の緋月霊斗だ
一瞬切るか迷ったが、何かあったのかと思い応答する
「どうした」
『いやなんか、胸騒ぎがしてな。そっちは大事ないか?』
「……まぁ、なんとか」
『その様子だとなんかあったみたいだな。今どこにいんだ?』
「桜坂美緒ってやつの家」
『近い…。ちょっと待ってろ』
「え?あ、おい!」
切れた通話画面を睨みつけ、夜斗は美緒を見た
どうやら仕事の電話らしく、テキパキと指示を出している
「おまたせ!そっちはなんかあったの?」
「あ、ああ。なんか俺の友人がくるらしい」
「友達いるの…?」
「いるわ一人くらい!」
霊斗がまだ電話をかけてきたため、夜斗はそれに応答する
そして来夏に案内されてきた霊斗は、夜斗を見るなりため息をついた
「え?人の顔を見てまずため息って何バカにしてんのか」
「してない日のほうが少ない」
「今すげぇカミングアウトしたなおい表出ろや!」
「あれ?君たしか、元同級生だっけ?」
「え…覚えてるのか。初めてだ、元クラスメイトに覚えてもらえてたの」
「悲しいこと言うな!?」
騒がしさを前に、クスッと笑う来夏
夜斗と霊斗は中学生時代の同級生だ
そしてどうやら、霊斗と美緒は高校生時代の同級生らしい
「夜斗、少し時間を貸せ。すぐ終わる」
「電話でよかったやろそれ…」
廊下に出た二人
霊斗が指を鳴らすと、少し空気が振動して波紋が広がった
「これは…!」
「遮音結界だ。その反応を見るに、知ってるんだな」
「俺が作った魔術…のはずだ」
「正解だ。お前が殺されたあと、血の記憶を読み取って継いだ。天音にも使えるぞ」
「…待て。なんでお前が前世のことを知ってる?」
「なんだ、そこまでは思い出せてないのか。俺の当時の名前は
「…へ?吸血鬼の…?」
「おう」
「……え?」
「混乱から抜け出せていないみたいだな」
夜斗が取り戻した記憶の中に、迫害されていた一樹に唯一話しかける少年の記憶があった
紅零と名乗るその少年は、ある日を堺に顔を出さなくなって、一樹は一抹の寂しさを感じたものである
「…じゃあ、なんでいなくなったんだよ」
「今で言う伊豆で従姉に呼び出されてた。数カ月の訓練を終わらせて帰ったらお前死んでたな」
笑いながら言う霊斗
笑い事じゃねぇよ、とぼやく夜斗は少し嬉しそうだ
「遮音したのは少しお前に話があってな。最近活性化してきたワームについてだ」
「お前も知ってるんかい。で、ワームがどうした?」
「白鷺」
「……あいつがどうした」
白鷺というのは、夜斗と霊斗がかつて戦ってきた人間だ
女子生徒全員を手篭めにしようとする白鷺を、力と知恵でどうにか抑え込んでいたのが約6年前
それ以来、奴の名前を夜斗が聞くことは減っていた
「あいつは、ワームだ」
「来夏が言っていた、人型ってやつか」
「ああ。式神を使って、片っ端から可愛い女の子を支配していたらしい。天音や紗奈さん、朱歌ちゃんが支配されなかったのは、元々持ってる結界とお前の魔力が邪魔したらしい」
「天音はわかるけど、紗奈と朱歌はなんで持ってんだよ結界」
「…やっぱり気づいてないか。朱歌ちゃんは元
前世の記憶として、卯月の次に出てくる人物
それが琴葉と雪菜。琴葉は一樹の妹で、雪菜は2人の幼馴染だった
しかしそれが原因で、早期に処刑されている
それは一樹が処刑される5年前。当時彼女らは7歳という未来ある子供だったのだ
「…じゃあ、琴葉…じゃなくて朱歌は…」
「お前の能力を受け継いでる。雪菜さんは妖怪の子孫だから、紗奈さんが前世の記憶で持ってるものを無意識に使ったんだろう」
雪菜は雪女の末裔だ
そんな彼女は、妖怪の子孫だから迫害されていたわけではない
死神と呼ばれた一樹との密接な交友関係があったために、迫害され・処刑された
当時としては妖怪なんてありふれたもので、死神は極稀に人間から産まれる悪魔とされていたのだ
「無意識に結界…。記憶を取り戻せば、より強くなるってことか」
「あんまオススメできないけどな。当時の迫害を思い出して心が持つのは一部の超変態だけだ」
「俺のこと変態って言ってんのかお前」
2人は笑う
こんなことも、今に始まったものではない
中学生時代どころか、前世のときからこんな調子だ
「怪しまれるし戻るか。夜斗、一応聞いとくけど特殊部隊入るか?ワームを撃退・討滅する部隊があるんだ」
「いや、やめとくよ。給料安そうだしブラックだろ」
「よくわかってんな…」
部屋に入るなり飛びつく美緒を受け止めきれず倒れる夜斗
そんな夜斗を笑い、どこからか取り出した携帯電話で写真をとる霊斗
そんな霊斗を睨みつつ写真を要求する愛莉
この世界は平和だ
あれさえ、なければ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます