第6話

夜斗はげんなりしながら鳥居をくぐろうとした

しかし少し抵抗感を感じ、鳥居を避けて神社に入る



「ん?久しぶり、夜斗。元気?」


「まぁ…元気だよ」



育ての親の娘、桜嶺さくらみね唯利ゆいりが夜斗を出迎えた

どうやら境内の掃除をしていたらしく、竹箒を社務所の壁に立て掛けて夜斗に駆け寄った

長らく妹として扱ってきたにも関わらず、実は血のつながりがない上に養子縁組もしてないためただの他人だと知ったのは3年前のことだ



「お父さんに用事?」


「いや、こいつがここに来たいっていうから…」


「お久しぶりです、唯利さん」


「来夏?夜斗と知り合いだったの?」


「私の探していた方が夜斗様だったのです」


「ふーん。ってことはお父さんか。ちょっと待ってて」



唯利は社務所に走っていき、中に入っていった

巫女服ながら軽やかに動いている



「…お前唯利と知り合いなのか」


「はい。巫女、というのもあながち侮れなく、私が元精霊であることを見抜かれました。それはあの方のお父様…神主の方にも言えることですが」



そんな話をしていると、夜斗の育ての親が早歩きで近づいてきた

そして来夏に向けて膝を折り礼をする



「お久しぶりでございます、来夏様」


「お久しぶりです、神主さん」


「…久しぶりだな、親父」


「お前は…夜斗。元気だったか?」


「どうにか3人で食えるくらいには元気だよ。心配かけた」


「それはいい。自立は悪いことではないし、義理の息子になる予定だ」


「複雑で嫌だなぁ…」


「困りますよ。霧桜様を娶っていただかないと」


「…まさか、来夏様の探し人とは…」


「肯定です」



来夏に立つように言われて、神主は立ち上がった

そして夜斗の頭を軽く叩き、社務所に向かって歩き出した

ためらいなくついていく来夏の後を追って、夜斗も社務所の中に入る



「ここは…立入禁止の場所じゃなかったっけ」


「そうだ。ここには霧桜様の御神体がある。そしてもう一つが、ワーム用の武器を喚ぶ道具」


「ワームを知ってるのか!?」


「当然だ。しかし喚ぶには相応の霊力が要る。夜斗にそれがあるかどうか…」


「あると思うよ。夜斗はずっと私といたんだから。霊力を持つ人といると、徐々に霊力が移るし。多分召喚はできるけど、使役できるかは別」


「使役…?意思があるみたいな言い方だな」


「言ってみれば武器の精霊だからね。意思があるといって過言じゃない」



唯利はそういって水晶を指差した

父の目に促されて、その水晶に指先で触れる

その瞬間、水晶が粉砕した



「割れたぞおいなんだこれ」


「…霊力か魔力を測定する水晶のはずだけど、割れたってことは…」


「余剰分でさえ人智余るということだ」


「さすがは夜斗様」


「本人を置いてくな」



夜斗のツッコミも虚しく、唯利と父はコソコソと話し始めた

来夏はニコニコしながら夜斗を眺めるだけだ



「それなら、神機の方がいい」


「なんだ神機って」


「今測定されたのは霊力じゃなくて魔力。本来人間には備わらないはずだけど、この際それはおいとくとして」


「おいとくなよ大事なとこだろ多分」


「神機は魔力を軸に起動する武装。神の名を冠するものとか、神そのものの名前とか権能の名前だったりするの。私は霊装…つまりは霊力で起動するものを持ってる」



唯利が出したのは神事の際に使われる大幣と呼ばれるものだ



「これの名前は、桜大幣。霊力を固めて球体にして飛ばすっていうのが能力」


「詰め込まれすぎて頭痛いんだが…」


「気のせいです。続けましょう」


「神機にも霊装にも、固有の能力がある。それは召喚してみないとわかんないからやってみよっか」


「それがいいな。夜斗、奥の広間に唯利といけ。あとは唯利に任せて俺は寝る」


「寝るなよ娘に押し付けて」


「そのまま夜伽すれば既成事実だ、唯利」


「はいはい、わかったから早く寝て」



父が部屋を出て、足音が遠ざかるのを確認して唯利は巫女服のまま奥へと進む

来夏に促されて、夜斗も後を追って中に入った

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