第4話

一先ず来夏に乗るなと伝えて、降りてもらう夜斗

そして少しだけ虚空を見つめて何かを考えていた



「もう一つよろしいですか、一樹様」


「おう。つか一樹って呼ぶなよ、夜斗でいい」


「かしこまりました、夜斗様。要件がですね…少々私たちを手伝っていただきたいのです」


「手伝い?卯月を探すとかか?」


「それもあります。というよりは、あの方を探して護衛せねばなりません」


「護衛?このご時世にか?」


「肯定です。現在、ワームと呼ばれる転生者が私たちや霧桜様を殺そうとしてきているのです」


「ワーム…。虫、か?」


「肯定です。ワームというのは、神樹というカテゴリーに属する霧桜様さえも食らうことができたという、虫の精霊です。彼らもまた、我々のように転生し、現代日本において人間として生きています」


「人間として生きてるならセーフだろ」


「そうとも限りません」



来夏は夜斗の腕に降り立った蚊を、料理を注文したときについてきた割り箸でとった

そして夜斗の眼前に移動させる



「これが、ワームたちが放つ式神です。普通の生物と見た目での差異はなく、微細な霊力振動によって区分されております。しかしながら、これはただの式神にあらず、人の生命力を吸い取る礎に過ぎません」


「…たしかに、集中すりゃなんか違うってのはわかる」


「ご聡明ですね。これを聞いて、すんなりと受け入れられるところはやはり死神様、ということでしょう」


「割と気にしてるんだからやめろ…。で、これに生命力吸われるとどうなる」


「簡潔に申し上げますと、寿命が減ります。この式神単体では1日程度ですが、数が数ですので。そうして殺した人間を、別の式神で操り日本を牛耳るのが目的と言われております」



来夏が捉えた式神が霧散するのを見て、夜斗は嘘がないことを確信した

元より、前世の記憶を戻された時点で異能はあると断定していた上に、前世にて夜斗も使っていたことを思い出したのだ



「霧桜を探すにしてもどうやるんだ?」


「おそらく、あの方は夜斗様の魔力を追ってこの地に来ているはずです。あとは、夜斗様の記憶からあの方の霊力を探し、探知する他ございません。我々は霊力がほぼ等しく、誤差程度のズレしかないので、正確に記憶されている貴方様なら…」


「ふむ…。まぁいいだろう。とりあえずお前はこれ書き上げろよ?仕事なんだから」


「真面目ですね…。まぁ今世は印税生活したいのでいいのですが」


「変なとこちゃっかりしてんな…」



夜斗はため息をつきながらそう言った



帰宅後。夜斗の出版社は、基本的にはオフィスを必要としない

印刷は外部委託である上、担当編集は作家の家で打ち合わせや締切フォローをするためだ

そして今日、紗奈は次回締切分を書き上げた



「…よし。まぁこのままでもいけるだろう。今日は休むか」


「はい!ということは…」


「………添い寝してやる」


「ありがとうございます!今日はアイリスさん特製お兄様抱き枕の出番が無くなりそうです!」


「アイリスぅぅぅぅ!!!」



夜斗の叫びは隣の部屋の朱歌の元にまで届いた



「騒がしいわね…。それより、そろそろ来るかしら…」

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