第3話

持ち込みに来たのは夜斗の1つ下の女の子だった

黒髪ロングでストレート。服装は黒のオープンショルダートップスと、黒のスカート

スカートには申し訳程度にフリルがあしらわれており、靴は厚底のブーツのようなもの

その女の子の目が夜斗を捉えたとき、少し笑った―――気がした



「少し直せばどうにかってところか…」



夜斗は既視感を感じるその小説を机の上に置いた

女の子は来夏らいかと名乗り、免許証を提示してきたため名前は本名なのだろう



「どのあたりを直せばいいと思われますか、い…冬風様」


「そうだな、とりあえず句読点が極端に多かったり逆に少なすぎる箇所がある。それと名前のあとにセリフを書くっていう台本形式は万人受けとは言い難い」


「なるほど…。まだ人間の常識には慣れませんね(小声)」


「なにかいったか?」


「いえ何も。ではそれを直し、再度持ち込みをさせていただきます」


「いや、その必要はない。奏音かのん、打ち合わせ室使える?」


「使えると思うわよ。けど午後から私の担当くるから、それまでにお願い」


「りょーかい。じゃあ場所を変えようか」



夜斗は先導しながらある程度場所を教えていく

トイレや自販機の場所を含む、だいたいの構造を教えておけば迷うことは減る…というのが、紗奈のときに学んだことだった



「先程の方は…」


「九条奏音。同期入社で、俺の親友の担当編集してる」


「密接なんですね」


「とも言い難い。あいつの父親は、結構頑固でな。俺を婿にすると頑ななんだ」


「それは…困ります。い…冬風様が忘れることはないと思いますが」



先程からの言い間違いに気づくことなく、夜斗は話を進めていく

時間が迫り、もうそろそろ奏音の担当が来るという頃



「…仕方ない。ネカフェ使うか」


「ネカフェ…というのは…?」


「えっまじか。インターネットカフェのことだ。パソコンが使えるし最新の文書ソフトが使えるから、家で書くのが難しい人におすすめしてる」


「そうなのですか。それは、いいことを知りました」



夜斗は来夏の笑みに既視感を感じたものの、また見なかったことにした



ネカフェにて

夜斗は飲み物を2つ手にして、借りたブースに入った

靴を脱いで入るため、来夏もニーソックスのまま…と思っていたのだが脱いでいた



「何故靴下を脱いだ」


「暑いのです。慣れないものは使わないほうがいいと学習しました」


「そうか…。まぁいいや」



夜斗は持ち込まれたUSBメモリをパソコンに挿して起動した

常連であるが故に、このブースは夜斗のために設置されたものだ



「…よしこれで使えるはずだ」


「ありがとうございます。一樹様」


「一樹…?」


「まだお気づきになられませんか?それとも、さすがに前世の記憶が消えてしまわれているのでしょうか」


「前世…?まさか今日見た夢…?」



来夏はパソコンのキーボードを打つ手を止め、横になる夜斗に跨った

そして妖しく笑う



「人間の体を得た今、私が貴方様を襲うことが可能となりましたしね」


「え?小説の参考資料?」


「真面目ですか。そうではなく、ただ純粋に人間としての愛です」



来夏がゆっくりと顔を下ろす

そんな来夏を見て、意外と体柔らかいななどとどうでもいいことを考えながら夜斗は抜け出す方法を考えた

しかし答えは見つからない



「思い出してくださいませ、一樹様」



来夏の口づけ

それは、夜斗の中に稲妻のように何かを奔らせた



「これは…前世の記憶…」


「はい。貴方様の偉業の数々になります」


「お前は、千本桜か…」


「肯定です。未だ霧桜様の発見には至っておりません。しかし、この日本のどこかに存在することは確かです」



来夏は夜斗に馬乗りになったまま言う

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