第68話



リリアに睨まれたスノーマンが、無意識に後ずさる。

先程までの強気は何処へやら、体がすくんで声を出すことすら儘ならない。


「アナタの趣味なんてどうでもいいの。 加虐趣味がある事も興味無い、でもね。」


言葉を一度区切り、リリアが一層眼光を鋭くしながら口を開く。


「私の友達を傷付けるモノに、私は容赦しない。」


そう言って人化を解いたリリアの爪が、スノーマンの胸を引き裂く。

真っ白な毛が血によって真っ赤に染る。


『この、我が、傷を……?』


『あら、模様ができてとっても素敵ね? でも残念、模様程度では済まさないから。』


そう言ったリリアは目にも止まらぬ速さで爪を振るった。 目を潰し、腕を噛みちぎり、魔法で足をすり潰した。

一方的な蹂躙がそこにはあった。


『ぎざまぁああああ!!!!!』


『ふんっ!』


トドメの一閃はスノーマンの首元に叩き込まれた。

悶絶するも束の間、直ぐにピクリとも動かないようになった。


「……ふぅ、これで一先ず安心ね。」


人の姿に戻ったリリアがゆっくりと蓮也達の元に戻ってくる。


「ライラも大丈夫? 」


「え、えぇ、ポーションも飲んだし、ちょっと腰が抜けちゃったくらいよ。」


「なら良かったわ。 暫くここで休んで行きましょうか。」


そう言ってリリアが腰を下ろそうとした瞬間、何者かによって弾き飛ばされた。


「リリア!」


「何事!?……え?」


そこに居たのは先程倒したはずのスノーマンであった。

離れたはずの手足と首、しかし、目の前にいるスノーマンは五体満足だ。

何が起きているのか理解出来ず、続け様に蓮也までもが殴り飛ばされた。


「っぐぁ!」


「蓮也ちゃん!」


『……ク、クッハァアッハッハッハッ!』


「なんで、アナタは今死んだはずなのに!」


ライラが叫ぶが、その様子にまた高笑いをする。

暫くして、ようやく笑いが納まったスノーマンが、ゆっくりと口を開いた。


『あぁ、人を化かすのはほんに愉しいわぁ。 まだ気付かへん間抜けはんらに、正解見せてあげまひょか。』


スノーマンがそう言うと、ぼんっと音を立てて煙が舞う。

暫くして煙が晴れると、中から現れたのは9つの尻尾を持つ狐であった


『スノーマン? 最初っからそんなモン居まへんえ? そっちの狼娘が闘ってたんはウチの魅せた幻覚や。』


「なんですって……」


吹き飛ばされて倒れていたリリアがゆっくりと立ち上がる。

かなり派手に飛ばされていたが、ダメージ自体は少ない様だ。


『いやぁ、ほんま笑わかせてもろたで。 ……せや、お礼に1つええ事教えたろ。』


ふふんっ、と得意げに胸を張った九尾が得意げに口を開く。


『さっきのスノーマンな、アレはもうのーなっとるよ。 うちが殺して喰らってもうたわ。 せやから、安心しぃや。』


「そりゃ、どーも。」


ライラがそう言うと、再びケタケタ笑い出す九尾であったが、急に独り言を喋り出す。


『アッハッハァ!……っ! なんや今ええ所やのに……えぇ、いやでも……はい、すぐ帰ります……』


あからさまにテンションが下がって居る九尾が、どこから出したのか分からない葉っぱを頭に乗せる。


『はぁ、今日はもう店仕舞いや。 オタクらの探しもんは次の階層にあるから、それ持って帰るなり壊すなりして早ういにや。 ほなっ!』


言いたいことだけ言って、煙と共に姿を消した九尾。

取り残された3人の間には、しばらくの沈黙が続くのであった。













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異世界転生したので狼とのんびり旅をします。 だっち @sousi101

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