第67話




スノーウルフに着いて行き、しばらく歩き進めるとライラは冷や汗をかきだした。


「……ねぇ、この道ってとても見覚えのあるのだけれど。」


「そうですね、さっき走ってた道ですね。」


「加えて言うならあのかまくらも見覚えしかないわ。」


その言葉を耳にしたライラは膝から崩れ落ちた。

それもそのはず、先程走って逃げ出したにも関わらず振り出しに戻ったのである。


「もう辞めましょうよぉ! 異変なんて放っておけばいいわよ! もうやだぁ…」


「ライラ、落ち着いて。強いモンスターなのかもしれないけれど、私達が居るわ。」


「落ち着ける訳ないじゃない! 何でこんなに面倒事に巻き込まれるのよ! 蓮也ちゃんも何か言ってちょうだい!」


「ライラさん、この狼達を見てください。」


「な、何よ。 普通のスノーウルフじゃない。 急にどうしたの?」


「この雪のように白い毛並み、そして柔らかい毛質、そしてつぶらな瞳。俺達が守らなければ、誰が守るって言うんですか! この子達が無惨に死んでいくのを、俺は見逃せないッ!」


「えぇ…」


蓮也の性癖モフリニスト全開な言葉を聞き、ライラは少し引いていた。

引く気のない2人にライラは観念し、先程のかまくらに向かい足を進める。


「…まだ帰っていない様ね。」


「気を張りすぎよ、もう少し肩の力を抜いたら?」


「そうも行かないわよ。私の、私達の、故郷の仇…かもしれないものね。どうせ乗りかかった船なら、きちんと息の根を止めてやらないと。」


先程までの震えはどこえやら、ライラの瞳には強い意志殺意が宿っていた。

そして暫く無言のまま、この住居の主を待っていると、外にいたスノーウルフが唸り声をあげた。


「……来たか。」


「あなた達は下がってて、巻き込んでしまうかもしれないわ。」


「…ッ!」


リリアが狼の群れを下がらすと、目の前に現れた家主と対峙する。

大柄な体躯は全身毛で覆われており、左目は古傷により閉ざされていた。


「一応聞いおくけれど、言葉は通じるかしら?」


『……犬っころ共め、妙な知恵を付けおってからに。』


「話が出来るならよかったわ。 今すぐここを去るなら「ハァーーッ!」」


リリアの言葉を遮るかのように飛び出したのはライラであった。

そして、勢いよく手に持った剣を力一杯振り下ろし、スノーマンを袈裟斬りにする、が。


『威勢は良いが、実力不足だな。』


スノーマンがその太い腕を振るうと、ライラは弧を描きながら吹き飛ばされた。


「うぐぁ…ッ!」


「ライラさん!」


『軽い軽い、雪玉のようによく飛ぶわい。』


毛に覆われ表情こそ分からないが、その声色からライラを嘲笑っている事は理解出来た。

血を流しながら蹲るライラは、力を振り絞って声を出した。


「なん、で、私の故郷を…っ!」


『ふむ、そうか、貴様はあの山の出か。 そうかそうか。』


「許さないッ! お前だけは、許さない!」


「ライラさん、これを飲んで! 早く!」


『クハハハハ! 傑作だぁ、根絶やしにしたと思っていたが、生き残りが居たとはな! …あぁ、笑わせてくれた礼に先の問に答えてやろう。』



クツクツと笑いながらライラを見下し口を開く。


『暇つぶしだ。力の無いものを全力でいたぶるのが趣味なんだ。』


「外道が…ッ!」


『この世は所詮、強さが全て。 故に、この我こそが「黙りなさい。」』


スノーマンが振り向くと、底には犬歯をむき出しにしたリリアが佇んでいた。

そして、本来感じることの無いはずの寒気がスノーマンを襲った。



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