第66話



「ライラさんの、故郷を…?」


「えぇ、私の故郷は北の山奥にあったの。 自然も豊かで村人みんなが協力して生活していたわ。 けど、私が10歳になる時、あいつが…!」


ライラは瞳に涙を浮かべながら唇を噛み締める。

その様子に、蓮也とリリアはやるせなさを感じていた。


「……ごめんなさい、もう大丈夫よ。 先を急ぎましょう。」


目頭を赤くしたライラがそう言いながら歩き出すと、2人もそれに続いて歩みを進めた。

暫く沈黙が続くが、あるものによってその沈黙は破られた。


『…ゥォーン』


「この声、スノーウルフかしら。 2人なら大丈夫だと思うけど、迂回する?」


「いえ、このまま行きましょう。 それに、もう気付かれているわ。」


リリアがそう言うと、チラつく雪の中からスノーウルフが姿を現した。

雪のように白い毛並みをもつ狼に、蓮也は少し心を踊らせていた。


「……蓮也?」


「ん?」


「そんなにアレの毛並みが気になるのかしら?」


しかし、蓮也の思うことはリリアに筒抜けであり、逆もまたしかりである。

リリアから伝わる嫉妬の念に、少し、いやかなり焦る蓮也はしどろもどろになりながら口を開いた。


「あ、いやぁ、勿論リリアが一番だけど、ね?」


「ふぅん?」


「その、ごめん。」


「最近本当に多いわよね。 ヘビーモス、だったかしら。 あの子にもデレデレしちゃって。」


「はいはい、痴話喧嘩は後にしてちょうだい。 来るわよ。」


いつの間にかスノーウルフに囲まれ、警戒しながら様子を伺うと、一際大きな群れの長が群れをかき分けながら現れた。


『フェンリル様とお見受け致します。 どうか、我々を助けては頂いただけ無いでしょうか。』


「スノーウルフが喋った…!?」


魔物が喋ると言う初めての出来事に混乱しているライラを他所に話を進める。


「助けるって、具体的には?」


『少し前の事になるのですが、外の魔物が住み着くようになってしまったのです。 我々の縄張りも占領され、同族の数もかなり減らされました。』


「外から魔物ですって!?」


「そんな大声出してどうしたの?」


「ダンジョンの魔物は全てダンジョンから生み出されるものなの。 外の魔物は中に入れない様になってるし、ありえない事だわ!」


「けど、実際起きてますし、そもそもこのダンジョンは既に異変が起きてるんでしょう?


「それは、そうだけど…」


「なら、せっかくの手がかりだし協力してみましょう。 何かの手がかりになるかもしれませんし。」


「悩んでいても仕方ないわ。」


「…そうね。 せっかくの手掛かりですものね。」


『話は纏まりましたかな?』


「えぇ、案内してちょうだい。」


3人はスノーウルフと共にモンスターの元へと歩き出した。

その姿をじっと見つめる視線に気が付かぬまま…



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