第65話




11層に足を踏み入れた一行は、環境の変化に戸惑っていた。

それもそのはず、先程までの晴天が嘘のように吹雪いていた。


「寒っ!」


「あは! 蓮也、雪が降ってるわ!」


「リリアちゃんは元気ねぇ。 蓮也ちゃん、これ飲みなさい。」


ライラから手渡された瓶を受け取り一気に口に流すと、先程までの寒さが嘘のように無くなっていた。


「すごい…! ライラさん、これって?」


「まだ試作品なんだけどね、体を温めて寒さを感じなくさせるポーションよ。試作品って言っても、自信作だけどね♪」


「流石ライラさん。 リリアにも…」


2人がリリアの方を見ると、彼女は元気に走り回り雪と戯れていた。


「必要なさそうね。」


「みたいですね。」


「とりあえず先を急ぎましょうか。このポーションも半日くらいしか持たないし。」


「そうなんですか、なら急がないと。」


雪と戯れていたリリアに声をかけ、3人は視界の悪い中を進む。

しばらく進むと、この雪の中でモンスターに襲われないことに気がついた。


「ライラさん、雪の中ってモンスターは居ないものなんですか?」


「いいえ、氷系統のアイスゴーレムやスノーウルフなんかが居るけれど…今日は見ないわね。」


「さっきから気配もないわ。」


「この雪だから、遭遇したくないはないけれどね。」


「そうね。 …あら、あれは何かしら?」


リリアの指さす先には大きなかまくらのようはものがあった。

3人は休憩のため中へ入ると、氷で出来た椅子や机があり、明らかに自然出てきたものでは無かった。

そして何より、氷の家具は人間が使うには不自由な程大きかった。


「誰かが作ったのかしら。」


「けど、よく作られてるよ。 あ、氷のグラスまである。」


「丁度いいし、一休みしていきましょうか。」


「そうだな。 ライラさんも休憩で良いですか?」


蓮也がそう問いかけて振り向くと、ライラは長くて白い毛を拾い震えていた。


「そんな…なんで…」


「ライラさん、どうしたんですか。」


「…2人とも、早く此処を出て次の層に進みましょう。 長居は禁物よ。」


「え、でも休憩するにはうってつけの場所じゃない?」


「駄目よ。 ここの主が帰ってくる前に出るの!」


ライラはそう言うと2人の腕を掴み外へひっぱり出した。

そして暫く走るとゆっくりと速度を落とし足を止めた。


「とりあえず、ここまで来れば大丈夫かしら。」


「あの、さっきの場所に何かあったんですか?」


「場所というより、あそこの家主が問題なのよ。 留守で良かったわ、本当に…」


「家主って、誰が住んでるのか知ってるの?」


「えぇ、あんなにも大きなかまくらの時点で気付くべきだったわ。 あれはSランクモンスター、雪男スノーマンの住処よ。」


雪男スノーマン?」


「えぇ、雪の降る地域にしか生息しない上に、余りの強さに目撃した人は大抵死んでるの。だから、殆どの人は伝承だと思ってるわ。 」


「でも、見たことも無いのによく分かりましたね。」


「……あるのよ。 忘れたくても、忘れられない程よく覚えているわ。」


「え?」


ライラが震えながら自信を抱くように蹲る。

そして、小さな声を絞り出すかのように口を開いた。




「私の故郷を壊滅させたのが、雪男スノーマンですもの。」

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