第62話




「ふふっ、可愛いじゃない。」


「いい毛並みだしな。」


「あら、浮気かしら?」


「まさか! リリアの毛並みには到底及ばないさ。 君以上なんて、僕は知らないよ。」


「まぁ、蓮也ったら…」


『く、くぅん…』


「きゅう〜。」


ベヒーモスは蓮也とリリアに撫で回され、ライラは余りの出来事に気を失っていた。

そして、流れる様に惚気出した二人の周りには、いつの間にか甘い空間が出来ていた。


「うぅ…」


「あっ、ライラさん起きました?」


「急に寝るなんて、やっぱり体調が良くないのかしら?」


「…いけないわね。 知らない間に疲れが溜まっていたのかしら? 二人がベヒーモスを手懐けている夢を見た…わ…」


ライラは頭を抑えなが起き上がると、腹を上に向けたベヒーモス。

夢として処理しようとしていた頭は再びショート寸前になっていた。


「みて、ライラ。 この子本当に大人しいわ。」


「…そうね。 うん、取り敢えずその子を離してあげましょう。 私達も先に進まなきゃだし。」


「それもそうね。」


ようやく解放されたベヒーモスは、土埃を捲りあげながら走り去っていった。

それを見て胸を撫で下ろしたライラは、お茶の準備をしながら二人に話しかける。


「うん、もうあなた達の規格外さは十分理解したわ。 それより、少し話があるのよ。」


「改まって、どうしたんですか?」


「これからの話よ。 もう時間も結構経ったし、今日はここ迄にする? それとも、このまま突破を目指す?」


言われてみると、既に夕方と言っても差し支えない時間となっていた。

正直、出来ることならこのまま突破を目指したい二人だが、夜までに帰らなければ心配をかけてしまう。


悲しそうな顔を浮かべた二人に、ライラは苦笑いをしながらポケットに手を入れると、その手にはビー玉程の水晶が握られていた。


「それは?」


「これは念話水晶よ、思い浮かべた相手と連絡が取れる魔道具ね。 こんな事もあろうかと思って持ってきてたの♪」


「それじゃあ!」


「ふふっ、修ちゃんに連絡するわね♪」


ライラが目を閉じ念話水晶に魔力を込める。

暫くすると、ライラは目を開きにっこりと微笑んだ。


「これでオッケーね、定期的に連絡すれば構わないって。」


「ライラさんありがとうございます!」


「流石ね!ライラは頼りになるわ!」


「それ程でも…あるかもね♪」


三人がお茶を楽しんでいると、いつの間にか日が落ちかけていた。


「っと。 そろそろ野営の準備をしなきゃね。」


「あ、でもテントとか持ってきてないですよ?」


「抜かりはないわ! これでも元冒険者ですもの♪」


ライラはマジックバックから大きめのテントを取り出し、慣れた手つきで組み立て始めた。

蓮也とリリアが巻を拾い集めて火の準備を終えると、次第に空は星が煌めいていた。


暫く星空を眺めていた蓮也だったがすぐに夕飯を作り始め、ライラの手伝いもあってかすぐに食事にありつけた。

ダンジョンで食べる食事は何故だか美味しく、あっという間に後は寝るだけの状態になっていた。



「さ、て。 遂にこの時が来たわね。」


テントの中で、ライラが真剣な顔で切り出した。


「何の話ですか?」


「まだ寝ないの?」


「はぁ…いい? 二人とも。たとえ仮のパーティでも初めての野営なのよ? やる事はひとつしかないでしょう?」


「え? 何かあるんですか?」


「それはね…」


ライラは少しためを使って、生き生きとした表情でこう言った。






「 恋 バ ナ ♪」



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