第61話



ダンジョンへ入ってから、早くも四時間が経過しようとしていた。

目的の10層までは辿り着いたものの、思いの外進み具合が悪かった。

その理由は…


「あ、ライラさん。 これ『トワイライト』って鉱石らしいですよ。」


「!?」


「この草は何かしら?」


「それは龍の雫!?」


「草なのに雫って変わってますね。」


「変な名前ね。」


「変わってるって、それは超高級素材なのよ!? 普通こんな所に生えていないわよ!?」


「でも生えてるわよ?」


「そうなのよねぇ、生えているのよねぇ。 何ででしょうね、うふっ、うふふっ。」


疲れきった顔のライラがから笑いをしながら二人を虚ろな目で見つめていた。

と言うのも、この二人は一層から本来出てくる様な代物ではない素材を次々と見付けていった。


しかし、この二人はそれだけに留まらず低位の魔物をはじめ、高位ランカーの冒険者でも手を焼く魔物が現れても軽く一蹴していた。

そして、ライラは十層ここに来るまでに疲れ切ってしまっていた。


「でも、本当に助かりました。ライラさんのお陰で迷うことも無いですし。」


「そうね。ありがとう、ライラ。」


「ありえない…ありえないわ…私の過去の苦労は一体…あは、あはは!」


「ラ、ライラさん?」


壊れかけのライラに少し疑問を覚えた二人は少し休憩を取る事にした。

そのかいもあって、暫くするとライラは何時もの落ち着きを取り戻し、冷静にこの現象について説明をするのであった。


「ふぅ… まず、あなた達の誤解を解くとするわね。ダンジョンって言っても、レア素材があちこちに落ちている訳じゃないの。龍の雫なんて、私でも滅多にお目にかかれない代物なのよ?」


「そうなの? 普通に生えていたけれど。」


「それが異常なの! 何回もダンジョンに潜って手に入るか入らないか、それくらい希少なのよ! 」


説明を聞くも、いまいちピンと来てない二人にため息をつくライラ。


「いえ、ごめんなさい。 つい熱くなってしまったわ。 もうこの際、二人だからって事で納得しましょう。えぇ、そうしましょう。」


そう言って、自分に言い聞かせるライラであったが、遠くの方から雄叫びが上がり警戒態勢をとった。

蓮也とリリアも辺りを見回すと、やがてその声の主が姿を現した。


「っ!? まずいわ! 二人とも逃げるわよ!」


「どうしたんですか?」


「あれはこの階層の主よ! 私の全盛期ですら手も足も出なかった化け物なの!」


ライラは必死の形相で二人を連れて逃げようと腕を掴んだ。

しかし、二人は逃げようとせず、しまいには警戒すらしていなかった。

そうこうしているうちに、5メートルほどの巨体がすぐそこまで迫っていた。


「もう! 本当に逃げないとまずいの! ベヒーモスはSランカーでも倒せるか分からないのよ!?」


「大丈夫よ、ライラ。 」


リリアがライラに微笑みかけると同時に、化けベヒーモスが飛びかかる。


『グオォオオオ!!!!!』


「『聖域サンクチュアリ』」


しかし、その勢いも相まって、蓮也の聖域に弾かれ仰向けになるベヒーモス。

すぐさま起き上がり体制を整えると、ベヒーモスの目の前には魔力を纏ったリリアが佇んでいた。

リリアは手をかざし、ゆっくりと口を開いた。





「 お す わ り 。」


『くぅん…』


先程の勢いは何処へやら、目の前の巨体は静かに腰を下ろすのであった。




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