第58話



次の日、蓮也が目を覚ますと朝日はまだ登って居らず、隣には穏やかに眠ってるリリアが静かに寝息を立てていた。

蓮也はリリアの頭を撫でるとベッドから立ち上がり外に出た。

静謐な朝の空気を胸いっぱいに吸い込み和んでいると、後から声をかけられた。


「おっ、早起きだなぁ。 感心感心。」


その人物は修也であった。

寝起きのまま外に出てきたのか、頭には少しの寝癖がついていた。


「おはよう父さん。 なんか目が覚めちゃってね。」


「あぁ、おはよう。きっと今日のダンジョンが楽しみだったんだろう。 蓮也は昔から楽しみがあると早起きだったからなぁ。」


「あー、そうかも。ダンジョンって異世界って感じだし、あるなら行ってみたいとは思ってたんだ。」


「分かる、分かるぞ息子よ。 父さんもダンジョンの存在を知った時は飛び出して行ったもんだ。 まぁ、なんの準備もなく飛び出したから、その後麻里にこっぴどく叱られたが…」


修也は当時を思い出したのか少し頬を引きつらせていた。

すぐに顔を振りこほん、と咳払いをして真面目な顔で蓮也に向き合う修也に、少し身構えて言葉を待っていると、遂に修也が口を開いた。


「孫が出来たら直ぐに報告しに来てくれよ。」


ずっこけた。 こいつ、やってんな?位に盛大にずっこけた。


「またその話か!? 昨日も寝る前とか色々たいへんだったんだからな!?」


そう、昨日の夜、蓮也はとても忙しかった。

いつの間にか酒を飲んでた両親が煽るだけ煽り、リリアはリリアで期待していたりと、宥めるのにかなりの時間を要した。


「子供はそりゃ欲しいけどさ、俺達には俺達のペースがあるから。 もう少し、二人の時間を大切にしていたいんだよ。」


「いやいや、急かすつもりはないんだが、お前に何もしてやれなかった分、孫は可愛がってやりたくてな。蓮華は嫁に出したくないし…」


「おい、最後なんか聞こえたぞ。」


ジト目で修也を見つめる蓮也だったが、いつの間にか朝日が昇っていることに気が付き二人で家の中に入った。

玄関を開けると、リズミカルな包丁の音と、ベーコンの焼ける匂いに思わず親子揃って腹の虫が騒ぎ出した。


「あら、二人ともおはよう。 もう少しで出来るから待っててね〜。」


麻里が忙しなくキッチンで鍋を振るうのを横目に、リリアの眠っている部屋へと戻る。

扉を開けると、先程と変わらず穏やかな寝息を立てているリリアの横に腰を下ろす。


「んぅ…蓮也…?」


「おはよう、リリア。」


「ん〜、もう朝なの?」


「あぁ、もうすぐご飯も出来るから下に降りようか。」


リリアは目を擦りながら、ゆっくりと体を起こす。

蕩けた瞳で蓮也を見つめると、瞳を閉じて口をとがらせた。

蓮也はリリアに口付けをし、身支度を済ませリビングへと向かった。



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