第56話



「おっ、来たか。」


「お待たせ、それじゃ行こうか。」


「あぁ。 それと、母さんにはまだ内緒にしてるからな。」


「いや、言ってあげなよ。」


「母さんの驚く顔が見たくてな。」


少年のように笑う父親を見て、昔と変わらないその姿に懐かしさを覚えた。 隣にいた蓮華も苦笑いを浮かべている。


「それより、早く行きましょうよ。 蓮也のお母さんにも早く会ってみたいわ。」


「そうだな、早く行こう。」


「あぁ、んじゃ行くか。」


蓮也達は大熊の宿を後にし、暫く歩くと大きな一軒家に辿り着いた。


「さ、此処が我が家だ。」


「随分と大きい家だなぁ。」


「稼ぎだけはあったからな、つい大きくしてしまった。」


「使ってない部屋も多いけどね。」


そう言って玄関を開けると、懐かしい匂いがした。


「ただいまー!」


「母さんかえったぞー!」


「おかえりなさーい!」


ドタバタと玄関の奥から現れた女性は満面の笑みで出迎えをした。 そして、蓮也の存在に気付くと可愛らしい笑みが何処へやら、表情が抜け落ちた。


「修也さん。私、蓮也ちゃんの幻影が見えるわ。」


「本物の蓮也だぞ。」


「その、久しぶり、母さん。」


「本当に、蓮也ちゃん…?」


「うん、まぁ、その、色々あってこっちに来たんだ。」


「…」


暫く蓮也を見つめた母親は、突如滝のような涙を流し、蓮也の胸に飛び込んだ。


「か、母さん!?」


「蓮也ぢゃんんんっ! もう、もう会えないと思っでだぁ!」


蓮也は泣きじゃくる母親の背中をさすり、落ち着くのを待つのであった。



「ぐすっ、取り乱しちゃってごめんなさい。 まさか、本当に蓮也ちゃんに会えるだなんて思わなかったわ。」


「俺も、こっちの世界に2人が居て、まさか妹まで出来てたとは思わなかったよ。」


「ふふっ、それより蓮也ちゃん、そちらの女性は?」


「紹介するよ、こちら彼女のリリア。」


「初めまして、リリアよ。 宜しくね。」


「まぁ! 蓮也ちゃんったらこんな可愛い子捕まえちゃって! 私は鈴原すずはら 麻理まりお義母さんって呼んで頂戴!」


「わかったわ、お義母さん。」


「お義母さん、いい響きだわぁ〜♪ 」


「んんっ、母さん、そろそろ中に入ろうよ。」


「あら、そうね、ご飯ももうすぐ出来るから待っててねぇ♪」


そう言って鼻歌交じりにリビングへ向かっていった麻理に続くと、広いリビングへと辿り着いた。


「リビングも広いなぁ。」


「はっはっ、良いだろう? リビングは家族か集まる場所だからな!」


「立ちっぱなしもなんだから、椅子に座りなよ。私達は着替えてくるから。」


蓮華に椅子を勧められた蓮也とリリアは、近くのテーブル席に座る。 修也と蓮華は着替えに行き、麻理は料理をつくっていた。すると、隣に座ったリリアが優しい笑みを浮かべながら口を開いた。


「蓮也の家族は素敵ね。 とても暖かいわ。」


「あぁ、自慢の家族さ。 でも、妹が出来てたのは本当に驚いたけど。」


「家族が増えるのはいい事じゃない。」


「まぁね。」


「私達も、頑張らないとね♪」


「うぇっ、あ、あぁ。」


「ふふっ、蓮也が照れるなんて、珍しいわね!」


「か、揶揄わないでくれ…」


「でも、私たちもこんな暖かい家庭を作りたいわ。」


「作れるさ、俺たちなら。」


「蓮也…」


「リリア…」


2人だけの空間が広がり、見つめ合う2人。そして、その風景を見守のぞくる3対の瞳。


「(蓮也ちゃん! いけっ!押し倒すのよ!)」


「(蓮也ぁ! 頑張れぇ! 父さん似のお前なら行けるはずだぁ!)」


「(あの、2人とも、ちょっと落ち着きなよ。)」


「(何言ってるの、蓮華ちゃん!これからがいい所じゃない!)」


「(そうだぞ、息子の漢気を見届けなければ!)」


「(はぁ…)」


3人の存在に気付いた蓮也とリリアは、2人して赤く俯くのであった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る