第9話

「しんた海だぞ」

眼の前には、海が広がります。


「父ちゃん、ここはどこ」

「C県」

「なぜここに来たの?」

「S県とC県は、昔からのライバルだ」


それは、第三者が決めた事で、当人たちには関係ありません。


「ところで、しんた」

「何?父ちゃん」

「ナンパしないのか?」

「嫌だな父ちゃん、オラがそんなふしだらなこと、したことないの、知ってるくせに」


しんちゃん。

まやお姉さんの前なので、猫かぶっています。


「おねいさんは、海をみないの?」

「私、肌がよわいんだ」

「かよわいんですね」

「うん。男なら、守ってね」

「まかせない」


しんちゃん、張り切っています。


「父ちゃん、おらたち、ここに引っ越すんだね」

「そうだぞ。広いだろ?井の中とは違うんだぞ」


しんちゃんは、喜んでいます。


でも・・・


「父ちゃん、だめだ」

「何がだ?」

「海の水。とても、飲めない」

「どれどれ・・・うわっ、しょっぱい。これじゃあ、即死だな」


そう、海水はしょっぱい。

話には聞いていたと思いますが、見ると聞くでは大違い。


カエルは、海では住めません。


「帰ろうか・・・父ちゃん、おねいさん」

「そうだな・・・日常が一番いい」


こうして、引っ越しは白紙になりました。



「まやさん」

「なんでしょう?みえさん」

「ごめんね、面倒かけて」

「いいえ。楽しかったです」


実はみえさんも、昔は同じことを考えていました。

まやさんも、同じです。


でも、海を見て早々にあきらめました。


「自分で経験しないと、わからないからね。男は」

「それは、関係ないと思いますが・・・」


井の中の蛙は、大海を知っている。

でも、行こうとは思わない。


カエルはカエルらしく生きるのが、いいのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

井戸の中 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る