Real
突然の告白が成功し、まずしたことは連絡先の交換だった。
好きな時に好きな人と連絡が取れるのは嬉しい。
「とりあえず何を話そう…。」
咲穂
こんにちは
「送っちゃった…!!」
しばらくして返信が来る。
悠吾
…?
こんにちは
かわいらしい挨拶しているうさぎのキャラクターのスタンプ付きだ。
見た目の割に案外内面は可愛いところあるんだよね。
「…えーと。」
咲穂
今度2人だけで出かけませんか?
動物園とか水族館にでも
今度はそんなに時間が経たないうちに返信が来た。
悠吾
ありがとう
いつもの曜日なら大丈夫だけど
学校だよね?
咲穂
うん、夏休みだったらいけると思う
悠吾
分かった、じゃあいろいろ準備しておくね
「やった!」
ウキウキでお風呂に入ろうとしたその時
ポロン
と着信音が鳴った。
メッセージを見ると
悠吾
大好きだよ
「フフッ。」
咲穂
私も
照れているいぬのスタンプを送った。
それから私たちは毎週会ってはいつもの他愛のない話と共に夏休みに何をするかを話した。
そして1ヶ月後
「そういえばサクホ、来週から夏休みだね。」
隣に座る彼がこっちを見て言う。
「そう!楽しみ…!」
笑みがこぼれる。
「動物園だよね。少し遠いけど大丈夫?」
「ちょっと、ユーゴも行くんだよ。ユーゴこそ大丈夫?」
私はユーゴの肩を軽くたたいた。
「ハハッ、大丈夫だよ。」
ユーゴはキメ顔をする。
「…サクホは本当に動物好きだねぇ。」
「うん、だから動物系の仕事したいと思ってるんだ。」
彼に微笑む。
「それ前に聞いた!」
ユーゴは私のおでこを軽く押して立ち上がる。
「じゃあ…。」
「え…?」
私は時計を見る。
時間だ。
「…うん。」
私はたまらず彼を抱きしめた。
「うおっ…また…来週。」
「…。」
彼は私の頭をなでると去っていく。
更に1週間後
ようやくこの日が来た…そう、待ちに待った動物園だ。
もう今日まで夜しか…いやそれは健康体だ。夜さえも眠れぬ日々を過ごしてきた。
楽しみ過ぎて。
昨日も今日何を話そうか考えていたら変な時間になっていた。
「さて…と。」
待ち合わせの場所、駅前の広場に着いた。
私は辺りを見回す。
ユーゴユーゴユーゴ…まだ来てない。
時計を見る。
時計の針は約束の時間の約30分前を指していた。
「早くつきすぎた…。」
咲穂
もう着いちゃいました
舌を出すうさぎのスタンプ付きで送った。
つい文章だと敬語になってしまう。
「それにしてもここは人が多いなぁ…。」
近くのベンチに腰掛ける。
駅前の広場だから当然、制服の女子高生、夏休み中の子供、スーツ姿のサラリーマン、リュックを背負った小太りの男、ベビーカーを押す母親、おしゃれした大学生。
たくさんの人がいる。
この人たちはどこに向かうんだろう、誰と出会い、何をするんだろう。
そんなことをぼんやりと、ただぼんやりと考えていた。
ふと携帯を見た。
既読は点いていない。
「まあまだ20分前だし…。」
30分後
まだ来ていない。
咲穂
何かありましたか?
「…どうしたんだろ。事故とかに遭ってないといいけど…。」
それから30分、1時間、2時間といくら待っても来なかった。
良からぬ想像はしたけれど、それが現実のことにならないことを祈るばかりだった。
日は沈み、いつしか街灯が灯り、夜の街並みへと変わっていった。
街のにおいも音も輝くネオンサイン。
この場所の対象年齢は月と共に高まっていく。
私は拭いきれない不安を抱えながら帰路についた。
涙を流して。
それから彼、ユーゴからは連絡はおろか、既読すらなく、あの場所にも現れなかった。
そして
暑かった夏ももうすぐ終わろうとしているある日のこと。
私はユーゴのことが忘れられず、勉強も何もかも手につかず目を腫らす日々。
時折メッセージを送ったりなどしていた。
咲穂
お元気ですか?
心配です
前のように毎日ではないが、今でも時々使うあの座席。
前のようにはどこか落ち着かない。
多分、ユーゴがいないからだろう。
「…はぁ。」
ため息をついて勉強を再開しようとしたその時。
携帯が震える。
「…なんだろ?」
画面を見た。
悠吾
ごめん、今気が付いた
「え…。」
視界が滲んで歪んだ。
悠吾
今どこにいる?会いたい
急いで文字を打つ、がうまく視えない、指も震える。
「ハァ…!!」
咲穂
いつもの座席にいるよ
送信、喜んで跳ねるうさぎのスタンプも一緒に。
悠吾
分かった、隣の病院に来て
僕の名前を言えば通れるから
「病院…?」
その2文字が不可解だった。
でも止められなかった。
走り出したその足を、鼓動を、心を。
「ハァッ…ハアッ…!」
走る走る走る。
自分の体とは思えない速度で。
こんなに走れたのかと驚いていた。
病院の受付に入った。
総合病院だからとても広い。
だがそんなことは別にどうでもよかった。
看護師さんに部屋の場所を聞いた。
何かを言っている。
何か言葉を喋っているのだろうが何も聞き取れなかった。
ユーゴがどこにいるかも言っていたはずだ。
でも何だか心で分かった。
とにかく引っ張られるようにその部屋へと向かった。
その間走っていたか歩いていたかも憶えていない。
ユーゴ、ユーゴ、ユーゴ、ユーゴ
「ユーゴ!!!…」
部屋のドアを開ける。
見る影もない。
そこに居たのは管だらけの変わり果てたユーゴだった。
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