生き物の腹を割いた日
初めて生き物の腹を割いた日を
今も鮮明に覚えている。
12歳の冬、路地裏で野良猫の死体を見つけた。
ほんのり青みがかった灰色の毛の猫。
死んでからそう経ってないのか、冬だからなのか、腐ったような匂いはしなかった。
近づいて優しく体を撫でた。
氷のように冷たい体。ごわごわの毛。
所々濡れていて、目が白く濁ってる。
死んでもこんなに綺麗なら生きている間さぞ多くの人間に可愛がられただろう。
僕はこの猫が生きていたら、近寄りもしないし撫でもしない、餌もやらないだろうが。
「……あぁ、お前、片目の色、違うんだね」
濁っていてわかりずらかったが
金と青の綺麗な目をしていた。
珍しくて綺麗な猫をもっと近くで沢山見たくなって、抱き抱えて家まで持って帰った。
自分の部屋に篭って猫を机の上に寝かせる。
椅子に座って机に向かう。
さっきまで家を空けていたのと、
空気の入れ替えで窓を開けていたから部屋は外と変わらないくらい寒い。
けれど肉が腐るのが遅くなるだろうから都合が良かった。
机の引き出しを開けてカッターを取り出す。
胸に刃を突き立ててそのまま一直線に降ろす。
変色してどろどろの内臓が漏れて
生臭い匂いと腹に残った排泄物の匂いが部屋に広がった。
匂いが外に漏れないように窓を閉めて鍵をかける。
素手でそのままぐちゃぐちゃと内臓を漁って取り出した。
「これは子宮かな、お前雌だったんだね」
内臓も一つずつ開いていく。
子宮を開くと小さく縮こまった肉塊がいた。
この猫は雌で、腹に子がいたのだ。
この母猫は美しく珍しい容姿に生まれて
きっと沢山の人に可愛がられて愛されて
どこか知らない雄猫と交尾して子孫を作り
産むことなく死んだのだろう。
彼女の美しい遺伝子は誰にも継がれることなく
この猫は寒い冬空の下
一人孤独に死んだのだろう。
生を未来に繋げるために生きたのに
それら全てを死で失ってしまったのだろう。
沢山の人間に可愛がられたとしても、
誰も彼女の最期に立ち会ってあげなかったのだろう。
最期は一人ぼっちだったのだろう、きっと。
そうであってほしい。
くすんだ白い骨を布で拭いて
どろどろした体液を取り除く。
文字通り骨と皮だけになった彼女の腹に
僕は僕が持ってる沢山の綺麗なものを詰めてあげた。
濁った目は瞼を下ろして眠っているように見せた。
枕にカッターを突き立てて破いて、
中の白い羽を入れた。
その上にプラスチックでできた宝石と
花瓶に飾ってあった花の茎を切ってお腹いっぱいに詰めた。
心臓があった所には大きな青い花、
くすんだ青のリボンを腸に見立てて、
下腹部には小さな猫のぬいぐるみを入れた。
これが僕が初めて作った “作品” だった。
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