第124話 告白の本当に価値:くどいくらいの言い訳

 前々回の投稿で、「成功する可能性が限りなくゼロに近いとわかっているのに、玉砕覚悟でなぜ告白まで踏み切るのか?」という問いを立てて、その理由として、「それは相手に対して何かしらの特別なメッセージを残したいという気持ちがあるからだ」なんてことを述べた。

「単なる友人、知人という、その他大勢的な関係で終わらせるのではなく、『僕は、あなたに対して特殊な感情を抱いていました』という記憶を先方に留めさせ、この先何かあったらいつでも頼っていいということをインプットさせたい」などということを説明した。


 が、しかし、冷静に考えてみると、フラれるとわかっているにも関わらず愛を打ち明けるという行為は、はっきり言って相手からしてみれば、いい迷惑だろうし、まあ、迷惑とまではいかないにしても、歓迎される行為ではない。だから、「平気でフッてもらって構わない」というところまで気遣ったわけだが、それにしてもやはり、前のめりで実行できることではない。


 そう考えると、結局のところ・・・・・・、それは“未練”だ。諦めきれない気持ちが、告白という暴挙へと誘(いざな)っていくのだ。


 相手を想う気持ちというのは・・・・・・、カワイイなぁ(素敵だなぁ)という印象が、やがて気になる存在へと発展する。そして、好きだという感情に気付き、その人の一挙手一投足を注目するようになってしまう。他の異性と仲良くしているところを目撃しようものなら、どうにもこうにも身もだえしてしまう。気にしないようにと思えば思うほど、相手へと関心が向いてしまう。忘れようにも忘れられない。結果として、いつもその人のことを考えてしまい、好きだという気持ちが日々募っていく。

 ここまでくれば、これはもう間違いなく・・・・・・“恋”である。


 そこで考える。自分はなぜ、そこまでその人のことを好いているのだろうかと。

 思い当たるフシはいくつもあった。まずは、第一印象が良かった。見た瞬間から明確に思い入る好みの顔立ち、好印象なスタイルとファッションと物腰(場合によっては、声色や匂い、姿勢や髪型、爪の形や肌のツヤなども)。そして、会話を進めていくうちに感じ取る、それを裏切らない性格とそれに裏打ちされた生い立ち。価値観だとか、趣味嗜好だとかの一致というプラスアルファが働けば、間もなくおとずれるのは“大好き”という確信である。


 ここまでの過程を経れば、どう感じようと、どう捉えようと、それが恋だとわかる。

 当然、この恋の充実を願う。その人の前ではカッコ良く(可愛く)振る舞おうとする。紳士(淑女)を気取ったり、ときに甘えたり、この時点でモーションをかける人もいる。言葉の端々に好きだという気持ちを込める。「いつもキレイ(カッコよく)にしていますねぇ」とか、「お人柄がいいので好かれますよねぇ」なんてことを伝える。目配せや態度、場合によっては、カラダを触れ合わせるという動作を繰り返す。


 よほど鈍感な相手でなければ、この気持ちは伝わるから、先方にその気があればなんとなく食事に行ったり、一緒に出かけたり、プレゼントを交換したりなどという具体的な行動が生まれる。お互いに相手を強く求める条件が整うなら、告白せずとも交際へと発展する。


 これが一連の“愛の成就”だ。


 ここに一手間、“告白”というプロセスが入り込むシチュエーションを考える。

 それは双方、あるいはどちらかにおいて、“この確信を、深さや大きさを交えて、相手にどうしても伝えたい”という強い衝動があるからである。

「オレ(アタシ)は、この世で一番キミ(アナタ)を愛している。その愛は、あのマリアナ海溝よりも深く、あのエベレストよりも高い。だから付き合ってくれ」と伝える。


 リア充満載の楽しい告白になるだろうけれど、そんな決まりきった、先の見える告白をする意味を、少なくとも僕は感じない。場合によりけりだけれど、後になってその呪縛に苛まれることになるからだ。

 もし、愛の告白があるとすれば、それは別れることを前提に付き合った場合に限る。だからたとえば、「第7話 看護師さんから」や「第67話 霊安室の帰りから」に登場する相手女性に対して愛を囁くことはあった。それこそ、何度もあった。

 やがて確実に終わりの訪れる恋ならば、その間にせめてこの気持ちを伝えておきたいという欲望に駆られるのは、皆さまにもわかってもらえる部分だと思う。


 だから――こんな言い方は、ものすごく癇に障るかもしれないけれど――、僕から愛を受けたという人は、別れることが前提であった場合が多い。僕から愛を告白されて喜んだ人が仮にいたとしたら、それは「束の間の愛だ」と言っていることと同義だから、あまり嬉しがらなかったほうがよかったかもしれない。

 つまり、玉砕覚悟、失恋前提でダメとわかっていて愛を告白し、そのとおりになったということは、別れるまでの時間が――正確には付き合ったわけではないので、“別れる”という用語があてはまるわけではないけれど――、単に最短であったというだけだ。


 ここまで読んできて、「コイツはなんて自分勝手なヤツなんだ」と思ったであろう。

 告白を端折(はしょ)って付き合おうとしていたし、告白したなら別れが前提だったと言っている。挙げ句には、「告白した全員からフラれたわけだから、それでもよかったでしょ」と開き直っている。


 ただまあ、何度も言わせていただくと、愛の告白というのは別れがあるから深い意味をもって囁けるのであって、成就を前提にした告白には基本、価値はない。相思相愛なら言葉なんていらないという意見があってもいいと思うし、逆に、「一生愛し続ける」という言葉がいかにチープであるかは、多くの人にとって理解のおよぶところではないのか。

 だから僕のダメ元での告白というのは、別れを前提にした、そして、その別れまでの時間が極端に短かったという現象に過ぎないということである。


 実際に愛を告白した全員にフラれたという実績が、その価値を物語っているが、誤解して欲しくないのは、いずれにせよもちろん、告白は深く愛情を抱いた人物にしかしない行為である。そうでなければ、ダメ元でそんな行動を起こすはずがないということは、どうかご理解いただきたいものである。

 なんとなく付き合った女性よりはそういう人ほど強烈に僕の記憶に残っていて、やはり未練を残していたということに間違いはないのだから。

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