第123話 不倫の恋を終わらせた女:“この女性、いま誰かと不倫しているな”というのがわかるようになった

 “不倫の恋”を終わらせた女がいた。

 35歳独身。妻子ある会社の上司(40代)と不倫関係にあったが、交際をはじめてから約2年、道ならぬ恋は終焉を迎えた。


 ここで、「それはそうでしょう!」と切り捨てるのは簡単だが、やはりこういう課題というか、事件というか、人ごとでない出来事に関しては、きちんと洞察を深めておく必要がある。


 不倫の恋になぜハマるのか? 苦しむとわかっていて、なぜその恋路に走るのか? 

 一言で言えば、リスクとリターンとにおいて、通常の恋愛からでは到底味わえない深い情感を得られるからである。優越感、背徳感、希少価値、どんな言葉で説明してもその真意は共通している。お互いが、その恋を魅力と感じるからであり、簡単には抜け出せなくなっているからである。


 ただ、現実的な話しをさせてもらうと、たいていの男にとっての不倫は、まあ言ってみれば遊びである。「真剣に愛している」と言ってはくれるかもしれないが、妻と別れるつもりのない男の本音は、このままの状態で長く楽しませてくれというだけである。だから、奥さんにバレそうになったときにおける男の態度というのは、滑稽か見苦しいかのどちらかである。

 だから、そういう覚悟というか矜持というか、ときに諦めというか、そういう感覚を持つことが大切で、過度な期待を抱くものではない。逢っている時間が楽しく、ときに学びがあったり安心があったりすれば、それで良しとすべきなのである。努々(ゆめゆめ)将来の話しなんてのはするもんじゃない。

 というのが、まあ一般的な建前である。


 冒頭の彼女は、「平日は楽しく過ごせても、休日になると家族のもとへ帰ってしまう。だんだんその寂しさに耐えられなくなってきた」と語った。

 交際が深まれば、情も深まる。相手がどんな立場であろうが、信頼や安心も生まれる。好きな気持ちだって、当然募る。結果、底なし沼に足を取られたようにズブズブの関係が続き、身動きが取れなくなる。


 もちろん、お互いのメリットというか、利害が一致するから付き合いが続くのだろう。

 真実を述べる。男の不倫の理由は、はっきり言って、第一にカラダである。言い方を換えると、快楽と欲望である。それ以外は、奥さんにはしてもらえない、恋人感覚での癒しである。

 女性にとっては、まあカラダという共通の目的もあるかもしれないが、女性特有の精神的安定だろう。

 男というのは、たとえ既婚であろうと、いやむしろ既婚であるからこそ、愛に飢えている。だから標的とする女性に対するストライクゾーンが広い。ストレートに言うと、女性からアプローチされれば、すぐに付き合ってくれるし、すぐに愛を語ってくれる。相手の女が可愛かったり、若かったり、素直だったりすればなおさらだ。

 それが、女性にとっては心地良いのだろう。不倫相手に文句やグチやダメ出しをする男なんて見たことがない。

 理解ある大人というのも、既婚男性の専売特許だ。そういう意味では、若者特有のうざったい干渉が少ない。以上のようなフィーリングが合えば、別れられなくなるのは当然と言えば、当然だ。


 不倫にとってもっとも大切な行動は、いかに付き合うかではなく、いかに別れるかである。どう別れるかを考えるために付き合っていると言ってもいい。終わらせたいという想いと、終わらせたくないという複雑な心境とからの、身を切る決別に迫られる。

 だからと言って、ここで「どう別れればいいか?」なんてことを説こうとは思わない。それぞれがそれぞれで考えればいい。そういう危険と代償とを伴う恋をした、ということをよくよく自重した方がいいからだ。


 ただ、僕の確信していることをあえて述べるとしたら、まずは、不倫相手とは決して結ばれないということ、そして、自分と付き合うことで、相手にもそれなりの苦しみを与えてきているということである。

 本当に別れたいなら、デートの誘いがあったとしても、そのたびごとに、何度でも、何回でも断るということである。相手を怒らせないよう自然消滅を期待するとか、逆に背に腹は代えられないと相手の態度を攻めるとか、あるいは、きれいな想い出として残るよう徹底的に話し合うとかということも避けた方がいい。

 最終的な別れの決断は、彼女の言うように「将来が描けないので・・・・・・」という理由に帰結する。だからもし、万が一相手に別れを拒否された場合には、「これ以上私を苦しめないで欲しい」と伝えることである。

 そうやって僕は、夫とは別れたものの、次の恋を探している初恋の人を諦めた(第99話 初恋から3:「家族も認めてくれたことが背中を押して、お付き合いをはじめました」。


 不倫もひとつの恋愛の形であることは間違いなく、普通の恋では味わえない多くの経験を積むことができる。であるからして、その道に踏み込む人が後を絶たず、もちろんこれからもなくなることはない。

 バツイチ・シングルの僕の立場で起こりえる将来の可能性は、既婚女性とそういう関係に陥るかどうかであるが、前向きに捉えるなら――と言っていいかわからないけれど――その見通しがないとは言えない(そんな話しも、いずれしようと思う)。


 いまの僕の感じるところを明かすと、“この女性、いま誰かと不倫しているな”というのがなんとなくわかるようになった。そして、その特徴は(一言では到底言い表せないが)、言葉や態度から発せられる、要するに“物腰”である。

 古い話で恐縮だが、不倫の代名詞と言われるような、映画『失楽園』(渡辺淳一原作)のなかで、もっとも印象に残っているシーンは、何も知らない会社事務の娘が、男性役の役所広司に向かって問いかける「彼女がいそうなのは・・・・・・、久木さんかな!」というセリフだ。

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