第53話 車の嗜好性から:走ればいいと思っていたけれど

 車について書こうと思う。


 ただ、僕自身、ほとんど車に興味もなければ知識もない。車なんてモノは移動手段に過ぎないと基本的には思っているし、何はともあれ、壊れないことと安全であること、それが大事でそれだけあればいい。

 ということを頭で考えていて、きちんと伝えているのだが、馴染みにしている中古車ディーラーの紹介してくれる車は、そういうのとは対極にあるものばかりだった。車種を明かすと、アルファロメオやプジョーやポルシェやマスタングだったりした。

「程度のいい中古車が出ましたから買いどきだし、いましかこういうのは乗れませんよ」と言われれば、「まあ、そう言うなら、今回はそれでいいか」ということで、歴代言われるがままに買ってしまっていた。

 幸運なことに、それでハズレはなかったし、そこそこ満足のいくカーライフを送れてこられたのも事実だ。


 いまの時代、車を道具としか考えない僕のような人は多いかもしれない。はっきり言って、みんな白いバンに乗っているというイメージだ。

 基本性能を優先する人が増え、外観がダサくても関係ない。メーカーとしても、コスパさえ良ければ売れるので、デザイン性は磨かれない。みんなと同じモノがいいという傾向にあり、変わったデザインや色は好まれない。

 “売れる車=いい車”という考え方のようで、売れている車がさらに売れる。それらがスタンダードとなり、ダサくとも似たようなデザインの、同じような色(白か黒かグレー)の車が大量生産される。


 そんなことはわかっている。「車なんて性能が良くて安全なら、それでいいじゃないか」ということである。

 ひと言で言えば、一昔前に比べれば価値観というか、ステータスが下がったというだけだ。冷蔵庫や洗濯機と同じように、生活のひとつの道具という感覚だし、そもそも都内に住んでいれば、必要とさえしない。


 その一方で、もちろん車好きという人も多いと思う。格好いい変わった車に乗りたい、メカをいじるのが好きだ、クラシックカーの魅力に取り憑かれている、なんていうものもいるだろう。車は、移動する自分の部屋みたいなところがあるから、こだわりたくなる気持ちもある。


 僕が、たいしてこだわりがないにもかかわらず、なぜエコカーのようないまどきの車を買わないのか? もし本当になんでもいいなら、ディーラーが何を薦めようと、フィットやノートでいいではないか。が、しかし、それらは買わない。


 少し前にジープ・ラングラーを買った。東北地方の被災地に行くことになったので、タフな四駆の車がいいと考え、これに関しては自分の意志で車種を決めた。だが、その理由は、「四駆と言ったらジープ」、「ジープと言ったら、あのイカツいラングラー」、もう三段論法のように迷うことなくあっさり決めた。しかも限定車。

 案の定、同乗された人からは、珍しがられることが多かった。

 そういうことで言うなら、これまで乗ってきた車もすべて多少の希少性があった。30代後半で赤いオープンカーに乗っていたのだから、正気の沙汰ではなかったかもしれない。


 年齢とともに、普通はファミリーカーへと移行するのだろうけれど、ファミリーの乏しい僕にとっては無用の長物だ。だから、「どうせなら」ということで、多少の斬新さを求めたくなるし、でも、そうかといって、仕事に支障をきたすほど性能が悪くて壊れやすいというのでは困る。飽きがくるか、多少壊れるかして、適度に買い換えたくなるような類いの車というのが、世の中にはある。

 それがいままでの車だったのだ。


「走ればなんでもよくて、車に興味がない」と言っているにもかかわらず、付き合いの長いディーラーさんがそういう微妙なラインの車を薦めるのは、僕の車に対する変な心理状態をよく熟知しているからなのだろう。

 いつも相手の思うツボだった。


 ただ、僕が思うに、車によって女子ウケというか、モテ方が変わるというのはいっさいなかったな。よほど車好きな女子ならわからないけれど、普通の認識くらいだったら、むしろ目立たない静かな車の方を好む。

「高級外車に乗れば女にモテる」、これは男の幻想というものだ。

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